交通事故によって脳挫傷となり四肢麻痺となった著者。その後、多くのリハビリ病院でリハビリを受けていく。しかし対応するリハビリスタッフの熱意のなさ、病棟での不満などで著者の意欲は低下する。最後には幸運にも、何とかリハビリに熱意のある病院に入院できたが・・・。
リハビリにプロ意識はあるのか。著者は受傷前、会社を3社経営するビジネスマンだった。企業では成功と失敗、損得について冷静に数字で結果が出る。しかし、リハビリの世界はどうだろうか。リハビリ職の1人1人の技術差、視野の広さには大きな差がある。にもかかわらず、技術の低いリハビリ職が淘汰される仕組みが十分にできていない。医療保険、介護保険や病院という組織に守られているのではないか。
患者の立場からでは何も言えない無力感、機械浴での屈辱感など本書には実際の患者側の視点が多くみられる。リハビリに関わる者、また医療に関わる者は患者の体調や精神状態を想像しながら関わってはいるものの、その苦しさについては自分自身で経験することはできない。患者がどのように思っているのかの1つの視点を与えてくれる。
この本は2009年に刊行されたもので医療保険制度も介護保険制度もその時とは少し変わっている。そのため現代でも本書のような熱意のないリハビリが行われていると断言はできないが、全く無いとも言い切れないだろう。なぜなら、次の転院先が決まっているのであれば転院までに冒険はせずに無難にリハビリを行って転院先へつないでいくからだ。
読んでもらいたいのは、リハビリに従事している全ての人。この本に出てくるリハビリスタッフの行動について、良い点、悪い点ともに感じ取ることで日々、自分の提供しているリハビリを振り返ってもらいたい。
リハビリの世界の構造的な問題はまだ残っているにせよ、まずはリハビリ関係で働いている1人1人がこの本の著者の気持ちを真摯に受け止めて日々のリハビリに取り組んでもらいたい。目の前にいる人が充実するリハビリを試行錯誤して行っていきましょう。
- 作者: 池ノ上寛太
- 出版社/メーカー: 三輪書店
- 発売日: 2009/10/14
- メディア: 単行本
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