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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】目を背けず正面から向き合うことの大切さ『人はどう老いるのか』

老い。それは、目が見えにくくなり、人の名前が出てこなくなり、つまづき、むせて、頻尿失禁に悩み、ハゲたりシワシミと戦い、好奇心も根気もなくなり、様々な病気が発生し、最後は寝たきりになることである。このように目を背けたくなる言葉の羅列、これが老いであり長生きするということだ。 
本書はそんな「老い」に対し、長年高齢者医療に携わってきた医者である著者が真っ向から向き合った本だ。老いに対して抗う立場であるアンチエイジングなどとはまた一線を画し、現場の生の声を拾い、経験や知識からくる考察だ。

誰もが迎える老いや死を、苦しまず楽にやり過ごす。そこはピンピンコロリの綺麗事では済まされない生身の出来事のオンパレードがある。

例えば高齢者医療のクリニックでは、重症度と苦悩の深さが一致しないことが見受けられたとのこと。半身不随から懸命にリハビリをし、かなり状況が良くなっても「もっとさっさと歩きたい」と悩み嘆くひともいれば、もっと症状が重く車椅子なのに「年のせいだから仕方ない、車椅子は楽でいい」と笑顔で手を振る人がいる。

著者は、こんなとき、「いかに老いや死に対して心の準備をしているか」で楽に老いられるかどうかが違うと説く。別の言い方では最後の章に、かつて日本の武士がなぜ切腹できたのか、の心得が語られる。すなわち人間みな必ず死ぬのだから、それなら悪い死に方よりよい死に方をしたいという気持ちから切腹するのだと。「人間みな必ず死ぬのだから」の部分が心の準備なのだ。

「医療に頼りすぎるな」ということも本書の中では繰り返される。例えば認知症については、現在の医療ではまだ本態が分かっていないので、現在の認知症治療は結核菌が見つかっていない時代の民間結核療法のようなものだという。現在の認知症治療薬も、進行を遅くする薬であり根治では決してない。そして逆に認知症にかかったら、かかっておらず頭だけがしっかりしているのに身体が動かなくなったときの苦悩と比べていかに気楽で、本人自身は今にしか生きておらず、心配事に頭を悩ませることもないのだと。つまり認知症は長生きに伴う自然の恵みではないかと説き、認知症になることも含め老いを潔く受け容れることが大事だと暗に言っている。

他にもがんを受け入れることなどに言及される本書。長生きができてしまう現代医療のなかで、いかにうまく生きながら老いや死とどう向かい合うのか。自分が老いることを考えるのみならず、介護する家族の立場の人であるなど様々な人が一読してほしい本だ。

2023.10.19発売
久坂部 羊 著
講談社現代新書