処女作品集『東海道戦争』を読んだ直後、今度は最新作をと思い手にした本書の初出は2015年4月。当時の筒井康隆は御年80歳である。2021年に『ジャックポット』という本も出ているのだが、そちらはどうやら私小説っぽいので本書を選んだのだ。
初っ端からいきなり凄いのが「ペニスに命中」。いや、タイトルより、中身がまたああた。ボケ老人の第一人称で語られる、なんとも奇特な認知症小説なのだ。
徘徊、妄想、我執、失念、無自覚、破壊的攻撃的、そんな指向性による危ないジジイの文脈乱れ打ちを楽しんだ後は、なんとなく哀切さが漂う「不在」、悪趣味感がいい感じな「教授の戦利品」などが続く。
ぐにゃぐにゃな「アニメ的リアリズム」、ほげほげな「小説に関する夢十一夜」に続いては、こんなものをわざわざ書くか? という「三字熟語の奇」、表題作であり、うん、そういえばSFっぽいね、という「世界はゴ冗談」も、ズレたスラップスティック調の快作だ。
登場人物と作者が渾然一体となって話を進める「奔馬菌」、「メタバラの七・五人」は実に興味深いし、笑える。
そして、最後には1972年の秋に宇能鴻一郎と共に渡ったウラジミール公国と、その地を舞台とした自著のことを書いた「附・ウクライナ幻想」と、本書はこれら短編10編で綴られているのだった。
これらの作品群の共通項は、時間や場面、次元すらをも飛び越え、ほぼ無関係なそれらをオムニバス的に繋いでいく、と言ったところだろうか。
かつての様な、一つの事象を突き詰めていくとか、投げ捨てる様な終わり方や、畳み掛ける狂気さは少し鳴りを潜め、言ってみれば「軟着陸」と言った印象も受けるが、なかなかどうして、これはこれで破壊と創造を未だにし続けている作品造りの姿勢に、まだまだどんどん延々と、せめて100歳くらいまで創作活動をして欲しいと、願わずにはいられない。
世界はゴ冗談
作者:筒井康隆
発売日:2021年6月1日
メディア:文庫本