HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

【書評】どうせなら最も古い作品を読んだろか。ということで、『東海道戦争』

 

ここ数年、改めて筒井康隆の短編集をぽつらぽつらと散発的に読んでいる。
しかし、あまりにも長い執筆年数、あまりにも多い作品の数に途方に暮れたおれは、いっそのこと最古と最新を読んでやろうと決めた。
そこで、1965年に刊行された処女作品集『東海道戦争』だ。
しかし、一体どこの誰が、お初のものを処女作と命名したのだろう。どうにも気恥ずかしい呼び方だと思っているのだが、まぁそれは関係ないからどうでも良いか。

世に出た早い内から、小松左京星新一と並んで「SF御三家」とも称される様になる筒井康隆の作家活動は、同人誌の制作から始まった。
1959年12月創刊の『SFマガジン』に影響を受けた筒井氏は、父と三人の弟を同人とするSF同人誌『NULL』を1960年6月に創刊。SF小説の受け入れ口が乏しかった世情から、筒井一家は度々マスコミに取り上げられ注目を得た。
巻末の大坪直行氏の解説によると、推理小説専門誌『宝石』の編集主任を務めていた時に、同誌の責任編集を担っていた江戸川乱歩氏が、送られてきた『NULL』創刊号をして、「面白い同人誌だよ」と薦めたのだという。
そして、筒井康隆作の「お助け」は、弟の作品や父による紹介文と共に、『宝石』に転載され、デビューとなった。
さらに、解説の内容に頼れば、本書に掲載されている作品は、『東海道戦争』、『しゃっくり』、『うるさがた』、『お紺昇天』、『堕地獄仏法』は『SFマガジン』に、『いじめないで』、『やぶれかぶれのオロ氏』は『NULL』に、『群猫』は『別冊宝石』にそれぞれ掲載されたもので、『チューリップ・チューリップ』は書き下ろされたものだそうだ。
それらの傾向はナンセンス、ブラックユーモアの類いと言える。
表題作の『東海道戦争』や『しゃっくり』などは、その後のスラップスティック気味の、ハチャメチャ暴走タイプ作品の片鱗を既に見せているが、それでも割と大人しめという印象。
勢いだけではなく、理詰めの文章もかなり目立つのは初期のものだからであろうか。SF的なおかしな現象、場面に際して、主人公が状況をどう理解しようとしているかに多くのページが割かれているのが、SF活劇というよりは、シチュエーションギャグという作風にさせている。
いずれにせよ、初期作品集でありながら、読む者に疑問を挟む隙も与えぬままに、一気に読ませる著者の力量とセンスを感じさせてくれる一冊だった。

さて、お次は最近の作品を攻めてみることにしよう。


東海道戦争
作者:筒井康隆
発売日:1978年12月10日
メディア:文庫本