あ、『太陽の牙ダグラム』や『装甲騎兵ボトムズ』などのアニメ作品の高橋良輔監督が書いた小説だ。しかも、表紙や挿し絵のイラストレーションを監督とのコンビ作も数多い塩山紀生が描いているのかぁ。相変わらずの蜜月振りのお二人だことよ。
と、それだけのことを動機とし、当時たまたま見かけた書店で本書を手にした様な記憶がある。
要するに、私はこの二人のコンビ作品が、その昔格別に大好きだったから買ってみたのだった。極々単純な話。
とは言え、その時分はアニメ作品などへの興味は薄かったし、日常的に観ている訳でもなかったので、本書に関しても予備知識ゼロで読み始めたのだが、その為にやや面食らう結果を招いた。
まず、ロボット物ではない。
高橋良輔監督と言えば、まあ、ホントはそんなこともないっちゃないんだけど、割りかしロボット物のアニメ監督のイメージがついて回るのだが、本作は、或る星を舞台にした異世界物のファンタジックでアドベンチャーな剣劇だ。そして、その世界の名が、タイトルの『モザイカ』なのである。
作風もなんかとっても勇ましくて、強引にドンドコ進んでいくし、どうも監督っぽくないなあ。
と思っていたら、著者によるあとがきを読んで腑に落ちた。
実は原作者は塩山紀夫の方で、数え切れない酒場通いのうちに聞かされた異世界物語の構想が元となっているのだそうだ。
それが機会を得て、月刊雑誌に塩山氏の絵に著者が詩文を付す、という企画『オデッセイ』が起ち、一年間の連載を続けた。
やがて、その連載を原案として、月村了衛がシナリオを起こし、『英雄凱伝モザイカ』という名のOVAが製作された。勿論、原作者は塩山氏、監督は高橋氏である。
さらに、そのOVAをノベライズしたものが本書。
と、幾分ややこしい成り立ちではあるが、アニメーターが好きな様に想起した夢物語が形になったのだ。なかなかそうそうあることではないし、塩山氏の想念、好んで止まない物語世界とはこういうものなのか、と見せつけられたのは、個人的にはかなり興味深いものであった。
惜しむらくは、著者も言う様に、本作は物語のほんの片鱗を見せるに止まっていると言え、まだまだ続くであろう塩山異世界「モザイカ」の、広大無限の世界をもっと見てみたかったということだ。
モザイカ
作者:高橋良輔(著), 塩山紀生(イラスト)
発売日:1992年8月25日
メディア:文庫本