私は絵を描いてお金をもらう。その最低限のレベルへ到達するまでにかかった時間は、ざっと1万時間。
けれど、これは絵のいちジャンルの技術にしか特化していない。私は「漫画」という目的で絵を学んだからだ。絵は目指すべき場所を決めて走ったとしても、膨大な時間がかかる。けれど、もしどこへ向かうのか決まっていなかったら、さらに時間を取られていただろう。
この本は、絵を描くうえで手段別の思考法を紹介したものだ。ひとくちに「絵を描く」といっても、どこへ辿り着きたいかによって考え方は変わる。
デザインなのか、イラストなのか、油絵なのか。漫画家は漫画を描く技術があっても静物デッサンが出来るかというと、そうでもない。それは目的によって絵を描くルールが違うからだ。自分がどんな絵を描きたいのか、何のために描くのか、自分に合った表現方法とは何か。
とりわけ「絵を描きたいけど、どこへ向かったらいいのか分からない」というクリエイティブ初心者にお勧めだ。
本の中には能力別自己判断シートもあるので、自分が何に関心を持っているのかを客観的に知る機会にもなる。中級者の人はぼんやりとは分かっていたけど説明出来なかった自分の方法論があると思う。それを著者が視覚的に体系化してくれているため、絵に対しての考えがより深まることだろう。
この著作は絵を学ぶ方向性を示してくれるが、要は目的を決め最低限の道具と知識を得て、やりながら考えるということを勧めている。
そして行先は自分の表現、自分にしかない武器を磨くこと。それにはまず基礎を固めることが必要だと教えてくれる。
絵は手で描くものではない。思考を指先へ伝い溢れさせ、紙に定着する手段だ。ゼロイチでものを生み出す人の頭の中、その基礎となる考え方を覗いてみませんか。