パニック状態に陥った人なら、体験したことがあるだろう。自分の頭がやけに速く動いているような感覚があるのに、同じ思考がループして、考えが進まないということを。恐怖からくる焦燥、その表現の仕方があまりにも忠実であるため、本書を読んだとき、私は頭の中に鮮明なパニック状態が再現できた。
主人公のフジコは、貧しい家の長女だ。一人、妹がいる。両親は、稼ぎもないのに見栄っ張りで、他人に気前よく金を使う。母は、整形するほど美意識が高く、化粧品には金を惜しまない。その分、子供達が不利益を被る。給食費も催促しないと払ってもらえないし、機嫌が悪いと怒鳴り散らかされる。体育着は、一枚を姉妹で共有している。さらに、フジコは学校でも居場所がなかった。いじめられていたのだ。学校にも、家にも居場所がない。何を希望に、どこで生きていけばいいかわからない。
そんな中、フジコは家族を失う。フジコ以外の全員が惨殺されてしまうのだ。そして、フジコは叔母に引き取られる。叔母は、優しかった。暴力を振るわないし、必要ならお金もくれる。自分を愛してくれている。しかし、フジコは、それまでの人生において、居場所がなかったことから、「自分」がなくなってしまっていた。その場にいる人間に対して合わせる能力は非常に高いのだが、その中に一貫性を持てないのだ。新しい学校でも、最初はうまくやっていこうとした。しかし、あまりにも人の顔色を伺いすぎるが故に、フジコはどんどん下の立場になっていく。そんな中、フジコは、トラブルに巻き込まれる。小学生の、教室の中で起きるには大きな事件だ。そこで、自分の地位が失われることを恐れるあまりパニックになり・・・。
これを読んだ時の衝撃はすごかった。こんなにも切迫感が伝わってくる小説は、読んだことがない。ぜひ、色々な人に読んでほしい一冊だ。