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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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スットコドッコイ、右往左往! 『波よ聞いてくれ』 著者 沙村広明 (講談社 2015年5月〜)

親の死に目以外なら、どんな悲劇からでも5日で立ち直る自信がある。そう豪語するのが、本作の主人公、鼓田ミナレだ。ミナレは、カレー屋で働いている、相当なスットコドッコイだ。なかなかこの言葉を使う機会はないのだが、これ以上にミナレをよく言い表した言葉は無いだろう。

ミナレは、失恋してから5日目、呑んだくれていた。呑んだくれだから、隣の客にも絡む、絡む。そこで絡んだ相手が、ラジオ局の麻藤だ。初対面の麻藤に、元彼の愚痴を言い、長々絡む。実はこの麻藤もずるい奴で、この愚痴をラジオ番組で流す。このラジオは、ミナレの働くカレー屋でも流れており、これを聴いたミナレは、放送をやめさせようとラジオ局に駆け込むのである。

放送を中止させようとラジオ局に駆け込んだミナレだったが、麻藤の雰囲気に呑まれて、そのままラジオで話すことになってしまう。ここからなし崩し的に、ミナレのパーソナリティ人生が始まるのである。

この作品は、会話の量が多いのに、ものすごくテンポがいい。まるで、本当に会話をしているかのようなノリの良さだ。一つ一つの発言に、キレがある。

登場人物も皆、魅力的だ。お調子者のスットコドッコイのミナレ、胡散臭いおっさんの麻藤、ゲイのカレー屋店長、宝田、ミナレに惚れてる熱血カレー屋店員、中原、それにミナレから金をだまし取った元彼、光雄。みんなキャラが濃い。その中でも、一番魅力的なのは、主人公のミナレだ。底抜けに明るい性格をしているのである。大体どんな悲劇でも、5日で忘れるし、すぐ調子に乗る。謙虚さも、1時間も持たない。先の見通しも全然無いし、貯金も光雄に持って行かれた。あんまりにも態度が舐めているので、カレー屋もクビになりそう。それでも全然深刻に思い悩んだりはしない。「クッソー誰かなんとかしてくれ〜」くらいのノリだ。そんなのが主人公だから、読む時に何かを思い悩んでいたら、そのことがバカらしくなるような作品である。