75名が書く75篇が収録された本著。いつもと違う顔を見せる表現者たちが紡ぐ言葉の数々。エッセイという気軽な形なのに、目を閉じて情景が浮かぶのはさすが表現者たちと言ったところか。
本著のエッセイは小説家が書かれたものだけではない。そのため言葉を使用して日常を具現化したという点で「表現者」という言い方を使おうとおもう。
小説は長くて難解と思う方でもエッセイなら読めるという方は多いのではないか。とある人の日々や思いが徒然なるままに綴られている。あの表現者はこんな人間なんだと驚く人もいるだろう、へぇおもしろい表現者だなと思う人もいるだろう。
根底にあるのは言葉である。自分の思いを表現するのも、相手と交流するのも、言葉が必要である。文字という一方的な媒介を通じて押し付けがましくなく、それぞれの表現者がそれぞれの形で表現している。
日々の何気ない生活に彩りを与えてくれる言葉の数々。そしてこんなにも日々の生活のそれぞれに意味があると気づかせてくれる。特別なことは特になくても、それがかけがえのないと言わんばかりに。コロナ禍が終わりつつある今日この頃、日々の生活があたりまえにあるすばらしさをそっと伝えてくれる本著である。