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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】老いと成熟の差は毎日の小さな変化?!『成熟スイッチ』

 作家・林真理子氏の、今現在を投影したエッセイ集である。皆、人生の節目節目で、「昔、正岡子規はこの年で亡くなったんだ」とか「新撰組近藤誠は自分の今の年では、、」などと、熟しきった先人と同じ年の今の自分の未熟さを憂いた事があるのではないか。体と気持ちはアンチエイジングで若くありたいが、経験に応じたよい年齢を重ねた大人でいたい、そんな塾年世代に向けたこのタイトル。数々の文学賞紫綬褒章の受賞に現在は日本文藝家協会の理事長で、日本大学の理事長を務めている、自分でも「大御所っぽく収まった」といった林氏から何某かのヒントが得られるかと頁をめくる。

 「人間関係の心得」や「お金を味方につける」「読書の快楽」の章と人生訓も諸々。そして所々に垣間見える、彼女のきらびやかな交友関係。しかしこの林氏が、いやこの林氏もやはり、ああ絶え間なく努力してきたのだ、と諭されるのが「私の成熟スイッチ・生き残るのは変化するもの」の章だ。
 即ち、変化を厭わない、いや寧ろ変化しようしようと挑戦し続けたことが綴られている。

〜(引用)私の人生訓の一つが、「生き残るものは大きなものでも強いものでもない。変化していくものだ。」です。
〜中略〜 
「書く私」という幹から「○○を書く私」が何本も枝のように生えていたのです。
〜中略〜 
私の「素直さ」と「真面目さ」、同じようなものは書きたくないという「意地」の三本柱があってこそと思います。〜

 確かに、直木賞を取った「最終便に間に合えば」「京都まで」の女心の心理描写や恋愛もの。大河ドラマにもなった「西郷どん!」などの歴史小説。そして同一雑誌最多掲載ギネス記録認定もある得意のエッセイ。多様なジャンルの著作は、最初に売れた後に自身を「完全にキワモノとして認知されていきました。」と冷静に俯瞰しつつ、ジャンルを選ばず寧ろ変えよう変えようと努力して書いていった結果がここにあるのか、ととても納得する。
 成熟と変化は一見して寄り添わない概念のように見える。しかし、一つの幹の中、一つところに留まらない所々の枝葉を生やすイメージで、新しいことへの挑戦が大樹を生み出したのだと腑に落ちる。

 ほかにも、占いが好きで、とにかく誰かに強運だ、大丈夫だと言われたい不安定な作家の立場の記述。尊敬から憐憫へと熟した夫婦関係をふりかえった文章。大御所、の林氏の細かな努力がやはり垣間見れる。
 読む者の立場により刺さる部分は違うかもしれない。しかし人生幾つになりどんなステージになっても、毎日を充実した能動的な生き方としていく、そのヒントが得られる1冊であろう。

講談社現代新書
林真理子
2022年11月20日