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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】8ページで孤独を語る村上春樹の世界『スパゲティーの年に』


 村上春樹ほど好き嫌いが分かれる作家はいないだろう。人間の心の中をこれでもかと抉る描写の数々によって、まるで自分の心の内を見透かされるような気がしてくる。この著書は人間の孤独をたった8ページで読者にたたきつけてくる名著である。
 「一九七一年、僕は生きるためにスパゲティーを茹でつづけ、スパゲティーを茹でるために生き続けた。」から始まるこの著書は、1971年の「スパゲティー」を茹で続ける「僕」の話である。
「僕」はスパゲティーを茹で続けている。「僕」の家に誰かが近寄ってくるような感じがするが、誰も近寄ってこない。ある日突然電話をかけてきた女性に対して、スパゲティーを茹でていると理由をつけて関わることを拒否する。電話を切った後関わっておけばよかったと言ってちょっと後悔する。そんな著書である。
この著書を解読できる自信ははっきり言ってない。伝えられるのは、僕は誰でもあり、スパゲティーを茹でる行為は社会との距離の象徴であるということだろう。孤独という選択をした結果、社会との関わり方を忘れてしまい、最終的には孤立感がじんわりとまとわりつくのである。この余韻というか、落とし物感がたまらない。
 以前フランス人の友人に村上春樹の年齢を伝えた時に非常に驚かれたことがある。彼女は「ムラカミのように青少年特有のモラトリアムな感情の些細な動きが大人に表現できるはずがない」と言っていた。村上は若き頃に感じ蓋をした感情を、言葉を通じて魔法のように我々にじわじわと伝えてくるのである。孤独がいいとも悪いともジャッジしているわけではなく、ただそこにある孤独を表現している。こうして気づかぬうちに村上にしてやられるのである。やれやれ。