自ら、アイデアを生み出す人はまず「天邪鬼」、と語る通り、著者は当たり前ではないことに傾倒した考えを持っている様である。文章のそこかしこに、普通ではない発想や筋立てを持ち込もうという姿勢が見受けられる。
大体が、この本の作り方自体が極めてユニークだ。ちょっと言葉では説明がし辛いが、実際に手にすれば、それはすぐに分かる筈だ。
そして、ページ構成も変わっていて、見開きの片面に画像等のネタを配置し、もう片面に解説文的に本文を載せるという、言ってみればプレゼン資料の様なレイアウトを以って、各ページで一つの話題が完結している。
こりゃ作るの大変だろうなぁ、とか思いながら読み進む訳だが、次に何が書いてあるのかが気になり、どんどんページをめくらされているのだから、文章力も魅力の一つとなっているのだろう。
さて、内容であるが、広告とは、なくても売れるのであればないに越したことはないものであるが、「広告制作にまつわる思考や技術」はとても貴重で可能性のあるものであり、その力をより良い未来をつくることに使えたら、社会全体が良い方向へ向かうだろうと言う。そういう意味での「広告がなくなる日」なのである。
そして、SNSは、「メディアビジネス」から、「広告クリエイティブ」を解放したと言い、従来の広告媒体であったTVや新聞ではなく、SNSによってもたらされた「ブランドと社会の接地点」について実例を挙げて解説する。
また、令和とは、課題もなければ、答えもなく、「意味」が失われた時代だとし、物質的に豊かでありながら、何故か「生きづらさ」を感じる世の中で、何を心がけるべきなのかについて述べたりもしている。
便利さや効率化が声高に叫ばれ、コモディティ化してしまったこの世の中に於いて、本書全体を通して度々言及されるのが、「人間的な衝動」についてだ。
クリエイティブとは? デザインとは? サスティナブルとは? ブランドとは? それらは結局、誠意ある個性に依るということか。
なお、メーカーである私にとって最も気になる「ブランド」、「ブランディング」についてといえば、「ブランドはつくれない」と著者は言い放つ。
さて、その真意とは?
全く以って、なかなか捻りの効いた本である。
しかし、現代社会に於ける広告のあり方について、適正な意見を述べた一冊であると思える。