本書では、東京都を改造するための37項の提言がまとめられている。第一章では「経済」をテーマに、著者が実業家目線で考える「東京を経営するとしたら」というとても興味深いものだ。
本書評では、評者が興味を持った提言の一つ「足立区は「日本のブルックリン」に生まれ変わる」について取りあげる。ニューヨークでアートと言えば、マンハッタンにあるMETやMoMA、グッゲンハイム美術館など、世界的に有名な作品を数多く展示する美術館や博物館をイメージしやすい。
しかし、様々な地域にルーツを持つ人が多く住み、マンハッタンへの通勤も便利で、家賃も安く、オシャレでのどかなアーティスティックなブルックリンの街並みは、アーティストや外国から移住する人にとっても住み心地が良く、世界で最もクールな街にも選ばれた。
評者も何度か訪れたことのあるエリアだが、なんと言っても興味深いのがブルックリン美術館だ。ニューヨークではMETに次ぐ巨大な美術館であるが、ユニークなテーマで度肝を抜く斬新な作品が数多く展示され、マンハッタンにある美術館とは、また違った個性ある面白さがとても魅力だ。
また、ブルックリンのみならずニューヨーク全体で、世界のトップランクの芸術に誰もが気軽にふれやすい環境が整っているところも素晴らしい。例えば誰もが無料で参加できるアメリカ5大オーケストラの一つニューヨークフィルハーモニックのコンサートや、多くの美術館や博物館に無料で入場できる取りくみ。
また過去には、入場料にはドネーション制が導入され、お金に余裕のある人は、美術館維持のために多額の入場料を支払い、学生やアーティストを目指す人々は、わずかな金額で繰り返し芸術性を高めることが容易にできる。
さらに、オペラの観劇などは富裕層の楽しみと一見思われがちだが、学生は舞台からかなり近いサイドボックス席でも格安で観劇することができ、多くの有名作品を知るきっかけともなる。
著者の提言によると、東京都でも公営の施設や土地を利用し、ブルックリンのようなアートな街づくりが可能だと言う。日本で生まれた世界的芸術は数多くあれど、まだまだ日本人にとっての芸術は、それほど身近ではないと感じる。
著者の掲げる提言のように東京都にもブルックリンのようなエリアができれば、アーティストという立場も、海外のように立派な職業として認められることにもなるだろう。
アートの力で、東京都のエリアをブルックリンのようなオシャレで画期的な街に生まれ変わらせることができる。評者もそう考える。