彼女を初めて知った時は“LOVE & HISTORY”と“POWER GATE”のシングル同時発売の時、私にとってその時すでに彼女は煌びやかな存在だった。声優というカテゴリーだけではなく、芸能に身を置く人たちは順風満帆な人生を歩んでいる者だと、私は当時 高校生ながらに誤解をしていた。
彼女からは勇気をたくさんもらった。大学受験や部活に日々の勉強、目標に向かって走り続けることは時には苦しみが付いて回る。そんな時、彼女の曲や深夜のラジオが自分自身のエネルギーに変換され、前を向くことができた経験は今でも鮮明に覚えている。
本書は彼女が多くのファンにエネルギーを渡せるようになるまでの、一人の人間として等身大の姿が描かれている。幼少期から青春期、デビュー期と、それぞれの環境とその中に身を置く彼女の主観が丁寧に記されているのだ。当時の苦悩や葛藤など、彼女の出演しているアニメ作品や大きなライブ会場のステージからはおよそ知り得ない内容だ。おそらく今後も本書以外のメディアから知れることはないのではないだろうかと思う。
努力を惜しまないということを、一体どれだけの人が実践できているだろうか。世の中にあるその言葉の数と実行された数はおそらく合わないだろう。彼女は文字通り努力を惜しまなかった。“夢を追いかける”ということには傷を重ねることも含まれる。それがどうしたと跳ね除ける強さを持つ人がいる一方で、多感な心を持った人は傷を重ねる度に、強くなるか否かの選択を迫られる。
メディアに取り上げられる人間の歴史からは、薄暗い過去は切り取られがちだ。成功体験やせいぜいちょっとした失敗体験が多いだろう。本書では少々ぼやかされている箇所はあるものの、一個人としての彼女の文脈を知ることができる。今の彼女を知る方にはぜひ読んでほしい一冊だ。
- 作者: 水樹奈々
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2014/01/16
- メディア: 文庫
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