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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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世の中に特別なこととか特別なものは何もない、とつくづく思うわけです。イエローハット創業者の哲学 『凡事徹底』

本書はイエローハット創業者の鍵山秀三郎氏の著書であり、著者が大事にしている「凡事」というものがいかに力を持っているか、ということを一人でも多くの方に知ってもらいたいという目的で書かれています。

「凡事」とは何を指すのでしょうか?
それは、朝起きたら布団をたたむ、雨戸を開ける、ちょっと家の前を掃くなどの身辺の雑用になり、著者が特に強調されているのは「掃除」でした。

掃除を代表とする「凡事」を大切にしようとする著者の考えに対し、周囲からは「掃除のような生産性のないことをやっているより、もっと経済性の高いことをやってみたらどうか」と非難の声が非常に多く挙がっていました。
“これでは競争社会で勝ち抜けない”と。

なぜ、著者は「凡事徹底」ということを何よりも大事にしているのでしょうか。

そのルーツは著者の人生にありました。
著者は自身のことを、学歴も知識も才能もお金も何もない凡人であり、裸一貫で上京後もことごとに屈辱を味わっていたそうです。そして自分にできることは自転車に乗れること、丈夫な身体をもっていることであり、そんな何もない自分に何ができるかを考えたところ、ボロ自転車一台での行商、そして雑巾とほうき、ちりとりを用意し、今あるものをみがき高めていこうとすることでした。零細企業のためどこにも相手にされず、屈辱を味わうことが多かった著者の会社は名前だけでも上品なものをつけようと“気高い”、“王道”といった意味の「ローヤル」という社名にします。「ローヤル」に勤めている社員も社外に出ると屈辱的な扱いをうけて帰ってくることも多く、社員の心がすさまないように、そして怒りが増幅しないように汚れていたトイレなどを掃除したそうです。
“才能のない自分ができることは、やれば誰にでも簡単にできることを徹底して、その中で差をつけていく”という考え方を大事にして生きてきたといいます。

著者が「凡事徹底」とともに大事にしていることは「縁を結ぶ」ということです。
著者は、私のような弱く何もない人間が社会的に幸せになるためには、良い人と縁を結ぶことが大事だと考え、その縁を結びつなぐには、打算のないひたむきな姿で生き、それを見てくれている人々の心をうつことが結果的に良縁に結びつくと考えます。それに加え、常に感謝の気持ちを持ち、素直に表現すること、そして「よく気づく人になること」が大切だと考えます。「よく気づく人」とは、自分が知らないところで誰かを傷つけていないか、などを気づける人です。それは些細なことかもしれませんが、電車の中で開いた新聞が誰かに当たって嫌がられている、つり革につかまった手の肘が背の低い人の髪の毛に触って、嫌がっているということに気付けるかどうかということです。これは「因果一如」という言葉に起因し、原因と結果は一緒であり、原因を作った時には結果も同時に生まれているということを意味します。ただ、原因を作って結果が生まれるのには時間がかかります。ものによっては十年経ってから結果が出てくるものもあるので、この原因と結果が結びつかないことが世の中には多々あります。自分が知らない間に人を傷つけたことが原因で何十年後に悪い結果が訪れることがあるというのです。些細なことでも気づくことが大事であり、「人を喜ばせる」ことをもとにして気づくことは大きな意義をもっていると考えます。

次に、人生に対しては特別なことよりも「小さいことに目を向ける」ことを優先するべきと考えます。人並み以上をのぞみ、特別なことを探しているうちに人生の半分が過ぎ、特別なことがないと気が付いた時にはもう遅いということがあります。創業期の余裕がない時にも、時間を割いて掃除を行い、乱雑な職場環境を変えてきたので今があるといいます。だれでも知っているが、やってはいないことに目を向け、実践していくべきと考えます。小さいことに気付ける人になるには「掃除をすること」「人を喜ばす」ことを念頭に置くことが重要になります。

最後に、重要なこととして「自らが経験すること」で学ばなければならないということを強調しています。人の話を聞いてるだけではなく、自らの手を汚して、寒い、暑いという体験をすべきであると言います。
「躓いたり転んだりしたおかげで
ものごとを深く考えることができるようになりました。
 過ちや失敗を繰り返したおかげで
少しずつ人のことを暖かい目でみれるようになりました。
 何回も追い詰められたおかげで
 人間としての自分の弱さ、愚かさを知ることができました。
 騙されたり裏切られたりしたおかげで
 馬鹿正直で親切な人の暖かさを知りました
……。」 
 と、相田みつを先生の詩を引用して強調しています。
よく気づく性格になるためには、自ら経験する以外に方法がないということを知ってほしいのです。

著者の鍵山秀三郎氏の主張には成果ではなくプロセスを重視することが強調されており、掃除をはじめとする「整理・整頓・清潔」はあまりにも平凡で普通のことであり、すぐには成果がでないが、徹底的に行うべきと伝えています。

「ときには目標を見失ったり、気持ちが萎えそうになることもあるんですが、やることは人が見捨ててしまいそうな小さいことでも紙一枚の厚さでいいから積み上げることが大事だと思います。目には見えないけれども、確実に積みあがっているんですね。私は“小さく生きて大きく遺す”と言っていますが、大事なのはこういうことだと思います。」

これが、イエローハット創業者、鍵山秀三郎氏の持たざる者が故の気付き、生き方だったと思います。

人生は凡事に苦しみ、凡事を楽しまなければならないのかもしれません。

 

 

凡事徹底 (活学叢書)

凡事徹底 (活学叢書)