本書には2009年から2013年にかけて、「小説すばる」に掲載された著者の短編小説6作品が収録されている。
そしてこれらの作品には、すべてに医者が登場する。もちろん医者はすべて架空の人物だが、この本、読んでいる途中で何度も「もしかしたら実話じゃないの?」と思ってしまうほどリアルさが伝わってくる。
なぜこんなに実話だと思わせるような作品ばかりなのか?というと、実は著者自身が医者なのである。
だから手術の場面はもちろんのこと、業界の内部事情や患者とのやり取りの場面がとてもリアルなのだ。今回はそういった作品の中から、少しくらいの症状なら病院に行くのを我慢しようかな・・・と思ってしまった「名医の微笑」を紹介したい。
この本に収録されているそれぞれの作品は、ブラックユーモア的な面白さがあるのだが、この「名医の微笑」はさらにエログロがプラスされている。
だからそういった話が苦手なら、この作品だけは読まないで飛ばしたほうがよい。
中でも、特異な性癖を持つ医師の矢崎が通う会員制クラブの場面。そこで行われているショーやその後の個室での行為がヤバい。
もともと矢崎の日常生活は我慢だらけの生活だ。患者に対しても、家族に対しても我慢。実際にそういう医者も多いのではないだろうか。
それがきっかけなのかは分からないが、矢崎自身は勃たないようになってしまっている。それが会員制クラブの個室である行為に目覚めてしまい、勃つようになるのだ。
しかしである、本当に申し訳ないのだが、紹介すると言っておきながら、ここに書くことを躊躇してしまうような表現が多い。だからここは実際に、本書を手に取ってみてほしい。
そんな作品を読んだからなのか、ふと私のかかりつけの医者の顔が頭に浮かんだ。彼もそういう趣味だったらどうしようかと。
いやいや、他人の趣味がどうだろうと良いだろう。迷惑をかけているわけでもあるまいし。
でも・・・少しくらいの風邪なら行くのを控えようか。
といったわけで、本書は最初にも書いたように、それぞれの作品のモデルが実在していて、ほんとは実話じゃないの?と思ってしまうほど、リアルな作品が楽しめる一冊だ。医療小説が好きな方はもちろん、ブラックユーモア的な作品が好きな方もおすすめである。