夫婦小説の傑作と言われる作品。
直木賞作家白石一文氏が描く結婚とは夫婦とは……。
主人公「俊彦」はうだつのあがらない写真家。写真だけでは食べて行けずアルバイトをしながら写真を撮っていた。
「みすみ」はバツイチの小料理屋の女主人。
俊彦が写真を撮りに訪れた街の風景。その偶然見た先に一人の女性を見つけた。それがみすみだった。
この小説には、そんな二人の出会いから十数年間に渡る夫婦の日常が淡々と描かれている。
しかし、時代や取り巻く環境の変化から夫婦関係は変化していく。
また、あるきっかけで小さなひびが夫婦関係に暗い影を落とす。
時折、夫婦生活についての場面があるが、心が離れていると体も離れていくのである。
「『夫婦とは なんと佳いもの 向い風 』逆境に放り込まれた時こそ、夫婦の真価が試される。」
翻弄されるわけでなく、夫婦の選択した結果はどうなるのか。
興味を引くのは才能についても描かれているところである。
「男の人は、これになりたいと強く思っていれば絶対になれるのよ。あとは時間がかかるかどうかだけ。早く夢がかなう人もいれば、想像以上に時間がかかる人もいる。だけど、脱落するのは諦めた人だけだよ」
みすみのセリフであるのだが、「女の人は?」と俊彦がいうのでまたそれは読んで確認してほしい。
人が何度ダメでもやり続けることができるのは、一種の才能であると私も思う。
それは、とても共感できたところである。
もう一つは、「才能ってのは草花じゃなくて樹木だと僕は思ってるんです。人間があれこれ手を加えなくても大きくなる木は勝手に大きくなるんですよ」
長く何かをやっていける人はその才能を持っている人だということではないだろうか。
白石氏の淡々とした語り口調は、派手さはないが心地よい。
そして、さらりと物語に引き込まれ、読了してしまうのだ。
結婚したい人、していない人、したくない人、人生の快挙とは何なのかこの本で見つけられるのではないだろうか。