1956年に発表されたロバート・A・ハインラインによる古典的SF小説であり、代表作ともされている本書。実は今更初めて読んでみた。
名作として名高いのは知っていたが、なんの予備知識もなく頁を繰ってみると、最初の頃は一人称の主人公の回りくどい言い回しや、自己中心っぽい性格がグダグダしているなぁと、幾分鼻についたが、キャラクターの味付けと感じられるようになったのか、ストーリー性の高さに惹かれ始めたからなのか、暫くすると気にならなくなった。
SFとはいっても、気難しいものでもハード系でもなく、主人公は三十歳前後の男性だけれどもジュブナイルっぽいラフな印象の文体だ。
物語は1970年のアメリカ。主人公のダンは愛猫ピートと二人きりで街をうろういていた。
ダンはエンジニアで、家庭用自動機械を次々に設計、製作してヒットさせるが、仲間に裏切られ、自ら起こした会社を追い出されたのだ。
酔いに任せて彼は保険会社へと赴き、ピートと共に三十年間のコールドスリープを契約する。
その後酔いも覚めた所為か、愚かなことだとコールドスリープの実行を思い止まるダンだったが、色々あって結局は永い眠りにつく。
次に目覚めたのは2000年。
そこで目にしたのは、かつてダンが作った機械たちの発展系だった。
あの会社はどうなったのか、あの裏切り者たちはどうしているか?
眠る前にも色々あったが、起きた世界でも様々な人々との出会いと共に色々ある。
まぁ、小説なのだから色々無ければむしろおかしいと言うものではあるにせよ、それにしても見事な作劇というか、流れる様に物語が進んでいく筋書き、見事な伏線と回収と、これだけの優秀なプロットが考え付くとは、ハインラインとは、なんと素晴らしい柔軟性と想像力に長けた頭脳の持ち主だろうか。
とにかく、「時間旅行もの」と言うジャンルを確立し、世界的な評価を受けた本作は、この後も色々な出来事が続く。
ダンの身に一体何が起きるのかと、最後まで飽きることなく読める一作である。
そして、2021年には『夏への扉 -キミのいる未来へ-』として、主演を山﨑賢人、監督は三木孝浩によって、まさかの邦画での映画化がされた。
びっくりである。
夏への扉[新版]
作者: ロバート・A・ハインライン
発売日:2010年1月25日
メディア:文庫本