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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】夕方が1日の中でいちばん美しい時間だよ『日の名残り』

桟橋に人だかりができている。夕日を見るために、人々は集まっている。
夕方が一番素敵な時間、とは何故だろうなと読みながら考えていた。
著者はカズオ・イシグロ氏。

もちろん朝の時間も好きだ。
起きて窓をあけると、橙色の雲が空を包んで、鼻腔に澄んだ透明な空気が入ってくる。朝の雑踏による匂いや埃にまみれていない真っさらな空気だ。

珈琲を淹れてトロリとした脳みそを目醒めさせる人もいれば、他人にさわられていない街並みや透明な空気を独り占めするために散歩する人もいるだろう。

この小説は、年老いた男性執事が休暇に、昔一緒に働いていた女中頭を探しに古びたフォードで旅に出る。

フォードが故障して、知らない人の家に泊めてもらったり、美しい景色を見るたびに、若い頃、元気に働いていた頃に思いを馳せる。

その執事の働きぶりは、よく言えば真面目、悪く言えば、融通が効かない堅物と思えた。

執事は、「仕事の品格」について考えを述べている。

それは、どんな状況にも動じず、泰然自若として仕事をこなすことだ。たとえ肉親が脳溢血で倒れても、執事は職務を全うした。それを誇りにしていた。

その古い知り合いの女性とは、常に仕事のことで揉めていたようだ。ただ、執事の仕事ぶりは、周りの人間から尊敬されていた。

ある日彼女は、執事に「今の恋人に結婚を申し込まれている。ただ、彼のことが好きなのか自信がない。でも誠実なひとなので、結婚して、十数年勤めたここを辞めるつもりだ」言った。

執事は、「仕事中にそんな私情を持ち込むな」と相手にしなかった。

彼女は、部屋の奥でひっそり泣いた。そして、辞めてしまった。

そして、年老いた彼は、あの時の、彼女の自分に対する気持ちにやっと気が付いたと思う。

お互い歳をとり、ようやく再会する。

彼は、相変わらず仕事人間。
彼女といえば、好きじゃなかった人と結婚したが、ずっと一緒にいると、大切な人になった。子供でき、孫もできて、私がいなくなっても、どんどん新しい命が生まれていくかと思うと幸せだ、と言っていた。

彼女とはもう二度と会うことはないだろうな、と思いつつ幸福な気持ちでいる彼を夕日が照らしている。

夕日は、自分が今まで歩んできた道のりを照らすシンボルではないかと思う。

過ぎたことを振り返って感傷的になるんじゃなくて、色々あったけどここまで生きてきた自分の現在地を照らす光だと感じた。

フォードで旅をして、夕日をみて、これからを一生懸命生きようと執事は思った。

今まであった色んなことが夕日にあぶり出されて、それが達成感に変わって、自分も明日からも頑張ろうと感じた。