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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】「何に乾杯しようか?」「いいから、だまって飲もうぜ」『キラー・イン・ザ・レイン チャンドラー短篇全集 1』

村上春樹による『ロング・グッドバイ』の新訳が刊行された影響で、改めてレイモンド・チャンドラーの作品が再評価されたのを機に、新訳で編まれた短中篇全集全4巻が発刊された。
なかなかの商売上手ではないか。しかも、一作毎に翻訳者を変えるという凝りようだ。
村上新訳版にはさして食指は動かないが、1930年代から1950年代にかけて活躍したチャンドラーの未読作を今更ながら読める機会を与えてくれたことには感謝せねばなるまい。
その全集の第1巻。収録されているのは、順番は異なるものの初期に発表された六作で、この内二作が未読であるのだ。これは嬉しい。

いの一番に登場するのは、チャンドラーのデビュー作である「ゆすり屋は撃たない」で、これは稲葉明雄が翻訳したもの(「脅迫者は射たない」)を読んだことがあるのだが、本書では小鷹信光が訳しており、彼の著した「探偵物語」シリーズには非道く心を奪われた身としては、そこのところは個人的な楽しみの一つでもあった。
未読だった「スマートアレック・キル」と「スペインの血」は、やはり初期作品らしくハメット的で、また、荒っぽい。だが、勿論文体には粗さや稚拙なところは無い。
「スペインの血」の主人公は刑事で、これはチャンドラー作品としてはかなり珍しいことだ。加えて彼がスペイン系の人物でもあることも非常に奇異なことである。
それから、このデビュー当時の作品達は割りかし三人称形式が多いことにも気付かされる。
一体どうすれば面白い作品になるであろうかと考えながら、色々な試みを施していたのかもしれないと推察する。その後作り上げるチャンドラー独特の魅力的なスタイルを確立する為に。

収録作品
「ゆすり屋は撃たない」 訳:小鷹信光
「スマートアレック・キル」 訳:三川基好
「フィンガー・マン」 訳:田口俊
「キラー・イン・ザ・レイン」 訳:村上博基
ネヴァダ・ガス」 訳:真崎義博
「スペインの血」 訳:佐藤耕士

キラー・イン・ザ・レイン チャンドラー短篇全集 1
作者:レイモンド・チャンドラー
発売日:2007年9月15日
メディア:文庫本