渋谷センター街を、まだ若いのに歩行器を頼りにキコキコ歩く男。
職質の警官に対して、その男、海図真助は言った。
「脚の筋肉が弱っててな。リハビリ中だ。文句あんのか」
キレやすい危ない奴だろ。相手にしないほーが、と警官たちが立ち去った直後、声を掛けてきたのは若い女。
「あんた面白い。存在感バリバリじゃん」
水島リサと名乗った彼女は、どうやらトップモデルらしい。
「あんた、あたしのこと知らないの?」
「何しろ20年ぶりなものでな」
「あたし、退屈してるの」
携帯かメルアドを、と訊くリサ。
「メルアド・・・って何だ?」
狩撫麻礼が土屋ガロン名義で原作を、作画は張慶二郎が担当し、2007年から2008年に週刊コミックバンチに連載された漫画作品。
土屋ガロンといえば、『オールド・ボーイ』というヒット作があったが、あれは10年もの間、監禁されていた男が不意に解放されて、長い間自由を奪われていた理由を追う話だった。
しかし、本作は・・・、
「俺は冷凍睡眠(コールド・スリープ)から20年後に蘇生した奇跡の男・・・・・・。おそらく人類史上でただ一人の・・・・・・」
ギャンブルと酒と女。4千万円を焦げ付かせた真助は、ヤクザによって闇の医療チームに売り飛ばされた。
やがて世界的なビッグビジネスになるだろうコールド・スリープの”人体実験”のモニター。
〈肉体〉の報酬は5千万円。
「つまり俺は・・・・・・アホなのだ」
だが、それだけではない。
「面白くねえ。何もかも・・・・・・」
この世は生きがたいとさえ思えていた真助は、成功確率50%に賭けてみる気になった。
そして、20年。
蘇生して出会ったリサも、日々苛立ちを抑えきれないでいた。この世に適応したくない二人は、互いに惹かれ合い始めるが・・・・・・。
という具合だが、SF感はあまり無い。
20年間眠っていた無頼漢が、どう感じ、どう動くのか。焦点をそこに定めて想像しながら書き進めた感じで、行き当たりばったり感は、オールド・ボーイと共通しているかも。
すっかりオヤジ化した過去の友人との再会、麻痺した肉体の回復、新たな人々との出会い。仕事や寝所の確保。
そして、あのアンダー・グラウンドな医療チームの再接近。
一旦野に放ったものの、実験対象を彼らが放っておく筈もない。
世間の枠に納まるのを拒む真助は、2008年の世をどう渡り歩くのか。
単行本で全五巻。
奇跡のヒト
作者: 作・土屋ガロン、画・張慶二郎
発売日:2008年7月15日
メディア:単行本