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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】俺は特別な男ではない。もっと早く気付くべきだった。『Days 時の満ちる』

 

二度に亘る外タレ興業の不入り。3億5千万円の借金。一匹狼の呼び屋、馬渡真助(まわたり・しんすけ)は、その夜、家財一式を売り払っての夜逃げを図ろうとしていた。
宵闇のなか突然の訪問者。債権者か!?
開け放されたドアに立ったのは、気品すら感じさせる様な令嬢風の美女だった。
「誰だ・・・・・」
「フィアンセを忘れたの?」
虚を突かれた馬渡の問いに女は応える。
女は、昨夜、酩酊した馬渡と結婚を約したと言う。合鍵も渡された。馬渡の素性も今の状況も全て語って貰ったと。
覚えは無かった。女の名前すら。
「君の名前も思い出せないような最低の男とシャレで結婚して一生を棒に振る気か!?」
「棒に振りません」
「君はいつでも好きな時に消えていい」
「消えません。夫婦ですもの」
会ったばかりの女。だが、誰かに似ている・・・・・。
債権者の罠か?
「ま、いいか・・・・・とにかく、もう俺には失うものは何もない・・・・・」
奇異な男女一組の逃避行。港沿いの取り壊し予定の廃倉庫に立ち籠もる生活の始まり。
どこまでもしとやかなで従順な女に、相変わらず何の覚えも無く半信半疑であった馬渡も心を許していく。
「美しい・・・・・。無垢、イノセントだ・・・・。背後に得体の知れぬ何かを感じるが・・・君が嘘をついているとは思えない・・・・・」

やや粗野で、破滅派ギャンブラーで捨て鉢、自らトラブルを招くタイプの馬渡は、やはり債権者に追われた。
それもヤバいタイプの債権者だ。
囚われ、リンチを受ける馬渡。
奴らの矛先は、ホテルで一人馬渡の帰りを待つ女にも向かう。
脱出した馬渡がホテルに着いた時、債権者たちは何者かによって正体を失わされており、女の姿は無かった。
「女は・・・・・あの女は・・・・・」
そして馬渡は、あの女が誰に似ているのかようやく気づいた。ヒッチコックの映画『断崖』のヒロインだった。

狩撫麻礼中村真理子が贈るラブストーリー。本作では、ミステリーの要素が加わっている。
眉目秀麗で怜悧な謎の女は誰なのか。
本当に酔いに紛れてプロポーズを?
違うとすれば、女の目的とは?
ほぼ二人だけで展開される前半に反して、後半は俄かに新たな登場人物たちが現れ、謎のベールが次々に剥がされていき、物語は加速する。
過去・・・疑念・・・復讐・・・時の満ちる前に・・・・・。

Days 時の満ちる
作者: 狩撫麻礼中村真理子
発売日:1985年12月15日
メディア:単行本