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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】僕はつまずかないぞ。僕だけは今後も決してつまずかない。『青の時代』

 

知人が、三島由紀夫が好きだと言う。
そう言えば読んだことなかったな、と思ったので読むことにした。
存在や死に様は知っていたし、どういう経緯で出演したのかは存じないが、彼が主演した日活アクション映画も観たことはあったものの、いかんせん執筆したものには全く詳らかではない。
ということで、書店で書棚を暫し眺めて、なんとなくこれにしようと手にしたのが本書である。
こういう時に、私はあまり悩まない。直感が大事派だ。

1923年、千葉県の海に近い町であるK市で生まれた川崎誠が主人公である。K市は由来低能児の多い町であるが、その地域一帯の中に於いて、川崎家の一族は、血統にしても、知能にしても、道徳的潔癖にしても極めて格上であった。
物語は、誠の幼少期から始まり、小学生、中学生と、エピソードを重ねてゆくが、厳格な父親との心理的対立が主に描かれている。と同時に、ひねくれと反省癖、つまり取越苦労を繰り返す誠少年の心模様こそが見逃せない。
父親の誠への愛情と、それを理解出来ない子の対立の姿。やがて飛び級で名門高校に入学し、上京してからは新しく知己を得た人々との付き合いを中心とする話となる。
戦争を挟んで、一気に六年後。誠は東大生ながら、数少ない友と共に会社を興す。平たく言えば高利貸業である。
事業を拡大していきながら、進むに進まないねじくれた恋愛劇も並行していく。
やがて事業に翳りが見えてきた・・・。

前書きに於いて、著者は主人公を「疑う範囲を限定しておいて、それだけを疑う。真理や大学の権威を疑っていない。疑わない範囲では、彼はしばしば自分でも気のつかない卑俗さを露呈する。ところが滑稽なことは、疑わない範囲の彼の卑俗さが、疑っている範囲の彼のヒロイックな行動に、少なからず利しているかもしれない点だ」と評す。
主人公にはモデルがある。光クラブという高利貸しを経営していた東大法学部三年の山崎晃嗣銀行法違反、債務整理、二十七歳で服毒自殺。
著者は、この事件を元に、主人公像を作り上げた。だからこそ、自尊心の強い少年の孤独の姿から積み上げる姿勢を採ったのだろう。
著者自らの気質から離れた抽象的なデッサン。それが本書なのである。

青の時代
作者: 三島由紀夫
発売日:1971年7月15日
メディア:文庫本