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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】ゆく河の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。『最古の災害文学 漫画方丈記』

 

日本三大随筆の一つである『方丈記』。
だそうだが、浅学な私は存ぜずでいた。
著者である鴨長明は、平安時代末期、鎌倉時代初期の歌人であり、随筆家、文学者とのことで、古文といえば「古事記」くらいしか読んだことはないし、正直言ってあまり関心が無いジャンルなので、そりゃ知らんわな、というところだ。
しかしながら、「最古の災害文学」という謳い文句に乗せられて本書を読んでみることにした。漫画化ということで、そして原文が短いもののため、オリジナル要素も盛り込まれており、読み易く、分かり易いものになっていると思う。

地震や火災などの災害のみならず、飢饉、疫病、遷都による世の中や人心の乱れなどの人災に至るまで、数多くの災禍をその眼にして来た鴨長明は、それらの際の街並みや家屋敷が被害を受ける様や、人の嘆き悲しむ心模様などを綴る。
そして、自らの出処進退に関して絶望し、家族と離縁して出家し、人里離れた山の地に於いて独居し、今度はその暮らしぶりや心のうちを吐露していく。
鴨長明は、非道く狭い庵を建てる。広さは約3m四方、四畳半から六畳くらいのワンルームで、衝立で仕切って、生活、仏道修行、芸術の間と、三つに区分している。
作りはできるだけ簡素としたので、分解して他の場所へと移設することも可能というくらいなのだから、どれほどチープな物か想像が付くというものだ。

そこで、ただ日々を過ごすのみ。好きに琵琶を弾き、好きに和歌を詠み、ひとりで楽しむのみ。
都では、身分の高い方も随分と亡くなったと聞く。さらに身分の低い人々となれば数え切れまい。火事も多く、焼けた家の数はどれほどになるのか。
それに比して、庵の中は穏やかで、なんの心配もいらないと鴨長明は言う。手狭とはいえ、ひとりで住むにはなんの不足もない。
たとえ家を広く作ろうとも、誰と住むのか。親族、妻子、友人、主君、或いは財宝や牛馬のため。それならば音楽や草木を友とした方が良い。召使いも雇わず、自らの手を召使いとし、足を乗り物とすれば良い。
そうして、世を捨て身を捨ててからは、恨みも恐れも無くなった。もうあとはうたた寝の様に穏やかに死ねたら。今までに見た美しい風景が心に残れば十分だと、達観の境地を窺わせる。

そんな鴨長明だったが、さらに思考を深めることとなる。
仏の教えに従うのなら、何事にも執着心を持つなと言うのに、この草庵を愛するのも、閑寂を良しとするのも、結局は執着ではないのか。
自らに問うても答えは得られない。
ただ、阿弥陀仏の名を両三遍唱えるのみ。

この書を書き終えて四年の後、鴨長明はこの世を去った。
その刻の胸中は、果たして如何にしたのであったのだろうか。


最古の災害文学 漫画方丈記
作者:鴨長明、信吉
発売日:2021年9月15日
メディア:単行本