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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】「マーロウ、あんたは依頼人には正直だって評判だな」「だから貧乏しているよ」『マーロウ最後の事件』

1930年代の社会・風俗面を最もよく象徴する一人。
そう訳者が紹介する作家レイモンド・チャンドラーは、たとえアルコール中毒の悪癖が私的にはあったにせよ、ハードボイルド推理小説をいっぱしの文学にまで確立させた立役者である。
本書は、彼が描いた代表的で最も重要な登場人物である私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とした中編四篇を収録したものだ。
作品の選定もした訳者がささやかに自慢させてくれと述べている様に、当時としては、一篇を除いてどの単行本にも収録されていないもの等を集めている。
後に書かれた長編作、「湖中の女」「さらば愛しい女よ」の原型となるものもあるし、表題作である「マーロウ最後の事件」は、チャンドラーの死後に発表された作品で遺作と呼べるちょっと貴重な一作だ。尚、訳者あとがきによれば、この作品は当初「Marlowe Takes on the Syndicate」のタイトルで発表され、後に「Wrong Pigeon」に、更には「Philip Marlowe’s Last Cace」に改題されたとのことである。
この表題作、妙に読み易く感じたが、従来のもの以上にマーロウの内心に寄った科白やモノローグの描写が多いからなのだろうか。一人称形式だから当たり前と言えばそうなのだが、作風も年月を経て微妙に変化をしている様な気がしてならない。やはり古い作品の方がより客観的に思える。徐々にマーロウは感傷が目立って増えてくる様になる。もっとも、そのお陰で後年の長編作「長いお別れ」は傑作になり得たのであるが。
個人的には「翡翠」に登場する人物達が、各々チャンドラーの作品に於いてはなかなか異色めいていたし、文章自体も凝っていて楽しく感じられた。

「If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.」
ハードでジェントル、センチメンタルな割にラフ、そんなマーロウは、自らに課したルールにこそ従順な、口の減らないのが玉に瑕だが頼りになる男だ。
チャンドラー自らの言葉にこんなものがある。
「小説に出てくる私立探偵は、想像上の産物で、ある一点を除いては、実在の私立探偵と全く同様に振る舞います。但し、その一点というのは、そんな人物は実人生では決して私立探偵にはなるまいということです』
そう言い放った男の物語。真偽は如何に?

収録作品
「湖中の女」
「女を裁け」
翡翠
「マーロウ最後の事件」

マーロウ最後の事件
作者:レイモンド・チャンドラー,(翻訳)稲葉 明雄
発売日:1975年12月30日
メディア:単行本