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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】これが真のグローバル人材だ!『ルワンダ中央銀行総裁日記』

巷で「グローバル人材とはどんな人か」という議論を耳にするたびに、何らかの違和感を覚えてきたが、この本を読んでやっとしっくりきた気がした。
ルワンダと聞くと、多くの人にとっては民族同士の対立によるジェノサイドの歴史が頭に浮かぶが、本書の舞台は今から約30年前に起こったルワンダ虐殺から遡ることさらに30年、1960年代のルワンダ。同国の中央銀行総裁として現地に赴任した服部 正也氏の6年にわたる奮闘記となっている。

1965年、IMFの途上国中央銀行援助計画の一環として、日本銀行で20年のキャリアを持ち、パリ駐在やインドの支援経験もある服部正也氏がルワンダに派遣されることになった。同氏は経済危機の緊急対策としての通貨改革、またルワンダの持続的な経済発展を目論んだ農業の市場経済化と、その実現の為のルワンダ人商人の育成に力を入れた。その成果は目を見張るもので、1971年に服部氏がルワンダを後にしてから、その後20年間ルワンダはアフリカの模範生として、順調な成長を遂げたという。

本書を読むと、課題の発見から、その課題への対応策の立案、ステークホルダーとの交渉術、人材マネジメントから組織作りまで、ビジネスに関わるあらゆる側面で学びがある。
足元では総裁としての自分の手足となる優秀な現地の人材を見極めながら、大統領とのトップ会談を通じて当面の問題を把握し、その解決策の立案、その実行では海外の中央銀行と自ら交渉し資金を調達するなど、さながらか赤字会社のターンアラウンドの動きそのものである。
当面の問題への手当ができたら、中長期的に国が持続成長を遂げる為の「武器」、ここではコーヒーを中心とした農業の発展に注目し、それを自国の人材で成し遂げることができるように、仕組みづくりに奔走したという。

個人的には服部氏の、現地の人材あっての国の安定と成長という考えに非常に共感を覚えた。「戦に勝つのは兵の強さ、戦に負けるのは将の弱さ」。国家に当てはめると、たとえ役人が無能でも、国民の働きがあれば国は発展する。この考えからルワンダ人農民とルワンダ人商人に同国の成長を託した服部氏の一連の取り組みは、当時のルワンダ人に大きな影響を与えただろう。その後、彼が世界銀行の副総裁まで登りつめたことからもその手腕と功績が垣間見える。

本書は、一見庶民からは遠い存在にも思える中央銀行が行う取り組みが、どのように市民の生活に影響し、国民の経済や生活の改善のためにどのような打ち手があるのかを学ぶのにも有用と思われる。また日本人として、半世紀以上も前にアフリカで中央銀行総裁として働いていた「グローバル人材」がいたという事実は、誇らしいことこの上ない。