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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】人生は選択の連続であり、大切なのは何をしたかではなく、それをどう受け取るか『君の膵臓をたべたい』

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「残り少ない私の人生の手助けをさせてあげてもいいよ」
内向的で、自分の世界に閉じこもりがちな「僕」と、僕とは正反対の性格の、いつもクラスの中心で笑っている「君」。今までも、これからも、きっと関わることのないはずだった二人は、ある日彼女が落とした日記帳を僕が拾ったことをきっかけに、関係を深めていく。

クラスメイトである山内桜良の日記帳を見てしまい、僕が知った真実。それは、彼女は膵臓の病気で、もうすぐ死んでしまうということだった。それから僕は、ただのクラスメイトではなく、彼女の病気を身内以外で唯一知る人物となる。

そして僕は彼女に強引に振り回されるかたちで、行動を共にするようになる。

桜良との関係を通して、僕の見える世界が少しずつ変化していくところが、本書の見所である。彼女との仲が深まるにつれて、自分の中にばかり向いていた目線が、どんどん外へと広がり、世界が色を成していく。

人に興味を持てなかった僕が、彼女と出会ったことではじめて人と繋がることの喜びを味わえるようになる。勿論、内に目を向けることは悪いことではないのだけれど、人は人によって変われるということを、本書は教えてくれる。そして人によって変わることを選んだのは、僕自身であるということも。

作中で、僕のふとした発言が、評者の心に残った。
”言葉は往々にして、発信した方ではなく、受信した方の感受性に意味の全てがゆだねられている。”という言葉。言葉にしても行動にしても、それをどう発信したか、何をしたのかよりも、それによってどう感じたのかを大切にしたいと、評者も常日頃から思っている。

僕が桜良に、「死ぬまでにやりたいこととかないの?」と聞く場面がある。
それに桜良は、「1日の価値は全部一緒なんだから、何をしたのかの差なんかで私の今日の価値は変わらない。私は今日、楽しかったよ。」と答える。

周りからの厖大な情報に流されて、何かしないと!と焦りばかりが募る。そして自分がどう感じたかはおろそかにしてしまうということは、日常では結構ある。だけどそのように過ごしていると、どんどん自分が空虚になっていく実感がある。「何をした」ではなく、「私は今日楽しかった」と桜良のように胸を張って言える毎日を過ごしたいと、強く感じる。

そして二人の関係は、結局最後まで、恋人なのか、親友なのか、わからないままである。だけどどちらにしても、非常に魅力的な関係と言える。相手のことを勝手に想像して、何でも自己完結してしまう僕と、自分の思いをそのまま素直に口に出す桜良。

正反対の性格の二人だからこそ、誰よりも相手のことをよく分かっている。お互いの欠点を補い合いながら、尊重しあえる関係。お互いに相手に憧れを持ち、相手を必要としている。とても理想的な関係である。衝撃的なタイトルはもしかしたら、この二人の関係性を表しているのかもしれない。恋人でも友だちでもない、二人だけの関係を。

本書は、映画化されたこととか、大ヒットした、ということは抜きにして、是非フラットな気持ちで、できれば高校生に戻ったような、素直な気持ちになって読んでみてほしい。重い部分はあるけれど、表紙のイメージそのままの、爽やかな読後感を味わえる作品である。

 

 

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

君の膵臓をたべたい (双葉文庫)

  • 作者:住野 よる
  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: 文庫