あなたはマーケティングとセールスの違いを説明できるだろうか?マーケティングとは「顧客をつくり、維持する仕組み」である。つまり、「セールスを不要にすること」がマーケティングを行う究極の目的といえる。
一度商品が購入されたあとも、顧客と積極的にコミュニケーションを取ることで、関係性を強固に維持し、リピートを作り出していく。この一連の流れを半自動的に仕組み化するのがマーケティングである。
評者は経営者ではないので、消費者目線で本書を読んだ。普段何気なく手にしている商品の裏では、こんなに多くのことが考慮されていたのかと、驚きの連続だった。
例えば、一度商品を購入すると定期的に何度もメールマガジンを送ってくるメーカーは多い。正直鬱陶しい。むしろ不快感を与えて、逆効果なんじゃないの?と思っていた。
しかし実際には、メルマガやDMは「読まれないからこそ何度も送るべき」なんだそうだ。そしてより多く、頻繁に送ったほうが効果的だ。とにかくユーザーの目に留まる確率を増やし、行動のきっかけをつくること。やはりアプローチをかけないと販売には繋がらない。重要なのは既存顧客との接点をつくること。そしてこれは「単純接触効果」と言って、有名な心理学の法則である。
そしてマーケティングというと、ついつい新規顧客の獲得を目標にしがちである。しかし目を向けるべきは、新規顧客よりも既存顧客である。既存顧客からの売上を優先したほうが、はるかに効率的とされている。そしてそのアプローチ方法も多様であるが、もっとも効果的なのは、顧客ごとに分類してオファーする方法。
評者はよくORBISのオンラインショップで化粧品を購入するのだが、たしかに既存顧客へのアプローチが上手いと思う。購入金額に応じてランク分けがあり、ポイントやノベルティなどの特典があり、特別感がある。ささいなことではあるが、なんだかんだ次も購入してしまう。そしてポイントを失効したくないという焦りもある。これもまた「与えてから取り上げる」という心理学のテクニックである。人は得られる利益よりも、失うことによる苦痛のほうが大きいというものだ。
消費者目線では気づかないことが多いが、ひとつの商品を購入するだけでも、本当に多くのからくりがあり、マーケティングの方法は無数に存在する。
どれを選べば良いか迷ったとき、優先すべきは「何をやるのか」でも「どのようにやるのか」でもなく、「なぜやるのか」ということだ。なぜを突き詰めていくことで、メーカーにとって大切にしている本質が自ずと見えてくる。本質を見失わず、それぞれに合った施策やテクニックを考えることが結局は一番の近道なのだ。