実際にあった9件の親殺し事件を題材にした、「親殺しには子殺しが先行している」というテーマの本である。
9つの事件の主な要因を、「教育家族」、「離婚」、「対人関係」の三つに区別し、仏典に描かれた阿闍世の親殺し事件をも手がかりに、親のあり方や救済について考える。
どの事件も、マスメディアの報道によって概要だけを知ると、ただひたすらに酷く、親を殺す無情な子供の姿しか浮かび上がってはこない。大半の人はそう認識しているだろう。
けれど、本当にそうだろうか。この世に生まれてきて、何の理由もなく親を殺す子供がいるだろうか。
親殺しの前に、先に子供が親によって殺されていると、この本の著者は言っている。心が殺されてしまっている。本来ならば、この世でどんなことがあろうとも、唯一のよりどころになってあげるべき親が、子供を殺し、そして子供に殺される。これは誰もが他人事とは言い切れないはずだ。
本書の中で、菅原哲夫氏の「隣る人」という表現が出てくる。
子供は自分の内部に「隣る人」という絶対的な信頼の対象の存在を感じることができるなら、「一人になれる」。子供は一人ではないから、本当の意味で一人になれる。危機において自暴自棄に陥ることなく、粘り強く自らを支えることができる。
これらの事件の加害者である子供たちがもし、「隣る人」に値する大人に出会うことができていたらと、強く思わずにはいられない。そしてあなたも今一度、よく考えて欲しい。あなたは子どもを殺していませんか?