「異なる分野と分野を繋げる人が、いま圧倒的に足りていない」
先日書店をウロウロしていたら、元NHKアナウンサーの堀潤さんがこんなコメントをしているビジネス雑誌の表紙を見かけた。中を読みはしなかったけど、この本を読み終えた際、突然そのことを思い出した。
異なる分野と分野を繋げることが出来ないと、何が起こるのか。
・・・そうか、分断か。
異なる分野と分野とは、何もビジネス界隈に限った話しではない。
貧富の差、民族・出身国の違い、性別・ジェンダーに対する自己認知や他者理解など、人ひとりのアイデンティティや暮らす環境だって、自分と目の前の相手とでは違うのだという意味合いにおいては、異なる分野と分野と言えそうだ。
著者ブレイディみかこさんはイギリス在住の日本人女性、ご主人はアイルランド出身の方。愛息子くんが名門小学校を卒業後に進学する中学校選びの話題から本書はスタートする。
良家の子供たちが通うカトリック中学校に進学するのが自然のように感じる彼が選んだのは、通称「元底辺中学校」と呼ぶ地元の公立中学校。
いざ入学してみると、小学校ではあまり接する機会がなかった様々な背景をもつ学生たち、またそんな多様な子供たちを誇りに思う先生がいる環境の中、数々のエピソードが展開していく。
それらのエピソードが私たちに教えてくれるものを思うと、本書を単に母と息子の葛藤・成長記と紹介するには惜しい。
中学生という多感な時期に、多様さ故に立ちはだかる仲間との壁も、豊かな感受性と自分なりの納得解をもって切り抜ける息子くん。またそんな息子くんの様子を見守りながら、お母さん自身でも、見て・聞いて・感じたことは、イギリス社会のみに限らない、アイデンティティや暮らしの違いからくる「分断」を考えさせられるものばかり。
最近店頭に並ぶ本には、とうとう「一生ものの課題図書」という帯が付き始めたことは、読んで納得である。
本書で度々登場するキーワードに『ポリティカル・コレクトネス』という言葉がある。移民の方が増えてきているとはいえ、単一民族で、海に囲まれた単一国家の日本で暮らす多くの純日本人にとっては、触れる機会が少ないテーマではないかと思う。
後に「人のアイデンティティは一つでなくていい」とお話しされている著者のインタビューに目を通したが、いくつかの要素が重なり成すものが人のアイデンティティであり、自分と違う主義主張をする人たちもその多様さからくるものなのだと教えてくれる人が、社会の変化のスピードに対し圧倒的に足りていないのかもしれない。
ブレイディみかこさんはそんな現代社会でずばり、異なる分野と分野を繋げる人だと感じる。だからこそ、本書は今年よく話題にあがった一冊になったのでは?
ちなみに分断を分断のままにしておくと何が起きるのかに話が及ぶと長くなりそうなので、もしお会いする機会があれば、是非一緒に熱い議論を交わしましょう。