近年ではVRやAR、生体認証やAIなど目新しい技術が数多く生み出されている。本作品は技術が行き着く可能性の延長線上の一つに位置する、そのような座標の物語で構成された短編小説集だ。
包丁は使う人によって調理器具にも凶器にもなりうるが、本作品はそのような話に近い。道具そのものに善悪はなく、それは技術も同様だ。今生まれているあらゆる技術は、どうやって人の役に立つのかということを前提に応用研究がされている。本作品の中ではその逆の思想、もしくは人の役に立つという定義がどこかズレたまま技術とその使い方を進化させていった。
読み進めていく中で不意に頭をよぎったものは百物語だ。あるはずないものがありえるという怪談の類は、現実と空想の境界線がぼやけ、独特の気持ち悪さと恐怖が残る。多くの怪談は過去の過ちとの因果関係によって成り立ち、呪いなどの事象として現れる。本作品は近未来を描いているにも関わらず、受ける印象は怪談のそれと同じだ。
過去の呪いと未来の技術、どちらにも僅かながらの恐怖が存在する。これから先に生み出される人の技術には、怪談のような未知の要素が多分に含まれていることを本書は気づかせてくれる。