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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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ダーク・エンドの無限コンボで脳をジャミング!『パラレルワールド お売りします』

人工知能や生命工学、認知科学、VRといった分野のテクノロジーが高度に進歩した世界を前提とした、(近)未来SF短編集である。

人工知能パラレルワールドといった用語自体は、特にSF小説の分野では既に古典的なものだといえる。人工知能に関しては、過去(とはいっても、ついこないだなのだが)にはSFにしか存在しない夢や妄想であった。しかし現在、その進歩の道筋が理解できないほどのスピードで発展し、その人工知能技術を呆然と眺める「一般人」が不安を覚える筈の要素「人間との関わり」が、不安を覚える間もなく既に実社会に実装されている。その行く末は「人工知能」と一括りにできるものではなく、「人間に認知不能な別のレイヤー」として、この世にもたらされることになるのだろう。

この物語群に登場する人工知能も、高度なテクノロジーが創る「レイヤー」を「人間」が認識可能な情報の形で提示する入り口にすぎない。それ自体が「悪さ」をするわけでも「人類と戦争」するわけでもない。「この世界」を、人間のような、認識能力に限度がある存在に対して「やむなく」分かりやすい形に加工して提示し影響を与えるために存在する媒介物として機能し、「人間にも理解可能な物語」を構成する役回りをしている。そしてそこに「意図」は無い。意図を与えるのは、常に「人間」である。

本書は、従来の「パラレルワールド」からイメージされる、我々が存在する宇宙の座標系に重なる形で存在する平行世界を行き来する物語、という「よくある」スタイルのものではない。しかし最後まで読んだ時に、そのパラレルな「ワールド」が存在するのは、どこなのか、そして、それは「存在する」といえるのか、といった根源的な問題を想起させる一冊である。