本書はタイトル通り文字をテーマにしている。タイポグラフィの領域を軸に、言葉の本質を探っていく。私たちが普段目に触れている文字は、その意味はもちろん、伝えたい意図によって姿や形を変えている。作り手のフィルターを通している以上、字間や行間、色、文字の大きさ、フォントは意図されたものになっているはずだ。
言葉の意味が同じなら文字のディティールなんて関係ないのではないか、私も初めはそう思っていた。しかしそれは誤解だった。考えてみれば口頭コミュニケーションにおいて伝え方はとても重要だ。伝えたいことは同じでも、伝え方一つで相手が受け取る印象は異なり、話がこじれる原因にもなりやすい。文字のディティールにおいてその認識が薄い理由は、口頭言語に比べ書記言語に触れる機会が少ないからだと思われる。その点本書はタイポグラフィの視点から、同じ言葉でも例えば明朝体とゴシック体でどのようなイメージの違いがあるかなど、比較し解説してくれるのでわかりやすい。
改めてお伝えするが、本書は文字通り文字の本だ。洗礼されたデザインで気づきにくいが、内容はどこまでも文字について探求している。表紙のタイトルにも使用されている丸明オールドがいかにして生まれたのか、その文字が美しさを得ている理由など、著者の文字に対する理性と情熱が垣間見える。
多くの仕事において“伝える”という工程は避けて通れない。伝えるとはどういうことなのか、本書はその問いに対しディティールの側面からアプローチをしている。デザイナーに限らず“人に何かを伝える”ことに悩んでいる方がいれば、ぜひ本書を手に取ってほしい。