著者は当時500名以上のメンバーで成るチームを率いる総監督だった。リーダーは孤独だ、常に先頭を歩くため正解を与えれれることはない。しかし、向かう場所は決めなければならないのだ。自分だけではなく、チームのメンバー全員が歩く道をだ。当然責任が伴う。「選んでよかった」そう思える道を完璧に選び続けることなんて不可能だ。さらには、道を示すことでメンバー全員がその方向へ進んでくれるかどうかも別の問題だ。別の道に進みたい、異なる方向を向いている、歩くスピードが周りより遅い、実はもっと速く走れる・・・。「進むべき道」なんて用意されていない、「物理的な枠」でまとまっている訳ではない、チームとはそういうものであり、そんな曖昧でグレーでふわふわしているものを率いる役割がリーダーなのだ。
チームを良く率いるためには、きっといくつか方法はあるのだろう。著者は言葉にあらゆる力を込めることを選択した。優しさ、厳しさ、本音、感情、事実、主張、代弁、体験、共感、強さ、そして弱さ。それらを込めることで、言葉ははっきりと輪郭を表し、熱を帯びる。これを存在感の観点から「大きな言葉」と名付けたい。長い長い時の流れの中でたった一時だったかもしれないが、確かに社会はあのチームに動かされた。そのチームを動かしていたのは、著者の発する大きな言葉だ。およそ個人の努力だけではありえない力が、大きな言葉によって束ねられ、そして生まれたのだ。
本書には著者がチームを率いて行く中での葛藤や苦悩、それでも前に進むために選んできた、もしくは選ばざるを得なかった手段が収録されている。およそ「解決策」と呼べるような綺麗な代物ではない、しかしそこには「相手を考え抜く」という確かな意思がある。自己完結で終わらせてはいけないのだ。率いるとはコミュニケーションであり、動かすためには伝わらなければならない。その手段の一つが言葉だ、「大きな言葉」でチームを動かそう。