HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

ダメなものはダメ。どんなに好きでも。 『ハチミツとクローバー』 著者 羽海野チカ (講談社 2002年8月〜2006年9月)

 恋愛は、自分だけの問題じゃない。相手がいて、相手の気持ちがあって初めて成立するのだ。こんな当たり前のことを、本書は痛みを伴って伝えてくれる。この漫画の登場人物の恋愛は、成就しないことの方が多い。

 

 中でも、私が特にそれを実感したのは、山田のエピソードだ。山田は、美少女だ。地元の商工会でもずっとちやほやされて、大切にされてきた。そんな彼女は、大学に入って恋をする。相手は真山、人と適切な距離感で関わろうとし、近づきすぎないようにしようとしている。本人は冷静に、うまくやっていると思っている。本当は人との距離感を自分で測れない、不器用な寂しがり屋なのだけれど。

山田は、真山に思いの丈をぶつけて破れ、泣き、それでも時々優しくしてくれる真山に対する思いを捨てきれない。美少女の、そんな懸命さにも、真山は絆されない。絆されないけれど、情があるから優しく接してしまう。だから、山田も期待してしまう。そんなループを繰り返すのである。


 そんなある日、山田は地元の商工会のメンバー5人から一斉に求婚される。急に好きだ、とか言われても、困る。そんなこと言わなければ、いつまでもみんなで楽しいままで居られるのに・・・。そう考えて、彼女は気づく。自分が今まで真山に対してしてきたことに。関係性を変化させようとすることは、それまでの関係に戻れなくなるリスクを背負うことでもある、ということに。自分は今まで、真山に対して、居心地の良い関係を壊すリスクを強いようとし続けていたのだ。


 恋は盲目、という言葉は、相手の良いところしか見えなくなる、というだけではない。自分の行いが相手に与える影響も、相手の気持ちも、時には、自分の気持ちさえも見えなくなってしまう。この作品では、この言葉が、多様な意味を持って、各人物に重くのしかかってくるのだ。


 ちなみに、山田と真山のストーリーも大きく扱われているが、主人公はまた別の人物で、そのエピソードもかなり大きく、重いので、ぜひ読んでみて欲しい。