坂本竜馬は、不思議な人物だった。
決して欲というものがなく、周りが勤王だ、攘夷だ、と熱に浮かされ騒いでいる中で、一人冷静に自分の考えを持ち、かといって自分の中にはしっかりと熱く燃えるものをもっている。
周りに流されなければ生きづらい世の中でも、生涯を通して決して世間の流れに身をまかせることはなかった。
竜馬は死への恐怖心が驚くほどになかった。
この時代の武士たちは、いかに美しく死ぬかということを考えていた。
いざという時の切腹の仕方まで考えているということが普通だったが、竜馬にはそういうところがなかった。
自分の生への関心が全くと言っていいほどなく、常に自分の好きなこと、目の前のことのみを考えて生きていた。
評者の心に残った文章がある。
竜馬は、議論しない。
議論などは、よほど重大なときでないかぎり、
してはならぬ、と自分にいいきかせている。
もし議論に勝ったとせよ。
相手の名誉を奪うだけのことである。
通常、人間は議論に負けても自分の所論や生きかたは変えぬ生き物だし、負けたあと、持つのは、負けた恨みだけである。
竜馬の人間性がよく表れているように思う。
常に私心を捨てて物事を判断できるところが、竜馬に人が集まってくる所以だったのだろう。
そして何よりも、明るく、周りの人を愛せる優しさをもった人だった。
どんなに聞こえの良い言葉を並べても、暗いと人は集まらない。
自分の興味のあることに没頭し、人生を前向きに楽しんでいたところが竜馬の魅力だったように感じる。
ここで、坂本竜馬について少しだけ説明しておく。
坂本竜馬は江戸時代末期の志士。土佐で、下級武士である郷士の家に生まれた。
土佐藩を脱藩した後、志士として活動する。日本最初の商社といわれる亀山社中を結成。薩長同盟を仲介して大政奉還につなげ、近代日本の誕生に決定的な役割を果たすが、明治の新国家を見ることなく暗殺され、その生涯を終える。
時代が混乱するとき、人はやたらと議論したがる。
そして同調圧力がどんどん強くなっていく。
けれど、そんななかでも、坂本竜馬のように、自分の目の前にあるやるべきことをやり遂げられる人もいる。
今だからこそ、読む価値のある本ではないだろうか。