著者は、タイフリークが高じてバンコクで暮らす日本人ジャーナリスト。
現地に就職して言語を身に付け、現地妻を迎え、子供をローカルスクールに通わせる、地元に溶け込んだ生活をしている。
20年以上観察している著者だからこそ知り得た、外国人が理解できない「タイ人の思考」や「社会構造」の本質に迫っている。
本書では、「“ほほ笑みの国”の“ほほ笑み”の裏側」「庶民から見た王室」「他国の侵略を防ぐための狡猾な外交手段」「宗教感」など多くのことが紹介されている。
その中で、最もインパクトあったエピソードは定期的に繰り返されているクーデターや大規模デモの裏側である。
2006年、当時の首相がアメリカ外遊中に軍が政府庁舎などを占拠。
その後、すべてのテレビ放送は予定を変更して国王賛歌が流された。
スマホが普及する前の時代は、メディアと電話が統制されると、首都にいても政変が起きていることに気付けない。
けっきょく、庶民が気付いたのは、夜中2時過ぎ。
新政府から「軍事クーデター成功宣言」がテレビで発表されたタイミングである。
クーデターを指示したのは反タクシン派、つまり、既得権益を持つ富裕層。
中流、貧困層から支持を受けるタクシン派の力が弱まった瞬間である。
しかし、この国の富裕層は富裕層どうし密接なつながりがあり、クーデターは根回しされていた可能性があると著者は見ている。
その詳細については、ぜひ本書を読んで確かめてほしい。
タイを訪れる日本人の数は、年約200万人。
気候がよく、食べ物がおいしい、物価もそれなりに安いことが人気の理由であるが、ビジネスなど、現地に深く入り込む場合は、タイ人特有の人間関係を知らないと痛い目にあいそうだ。
転ばぬ先の杖、一読してから行動を起こしたい。
作 者:高田 胤臣
発売日:2023年11月30日
メディア:光文社新書