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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】語学書ではない、歴史と人生の書『教養としてのラテン語の授業』

さて、タイトルからよくある教養系の語学の本かと想像したら大間違い。著者は韓国人で、東アジア初のロタ・ロマーナの弁護士であるハン・ドンイル氏。ロタ・ロマーナとは700年の歴史を持ち、カトリック教会の司法権最高機関であるバチカン裁判所。そんな著者のラテン語の書とは、さぞ難しいかと思いきや、内容は人生の酸いも甘いも噛み分けた著者からの人生訓に近いものだった。

ラテン語と言えばヨーロッパ系の多くの言語のルーツで、高尚だが今は使われていないし難しい、というイメージが大方だろう。実際に本書でもラテン語は難しいということが述べられており、著者自身も習得に苦労した様子だ。しかし、語学は歴史や文化、その話者の性格や気質なども定義するほどの力を内包しており、著者曰く、ラテン語は叡智の貯蔵庫であるとのこと。本書ではそんなラテン語の成句や故事の背景や、そこから著者が考えたことが記してある。

ここではその中でも著者がこれだけは必ず覚えてほしいという一言をご紹介。
「Do ut des(与えよ、されば与えられん)」
ローマ法の債権契約に出てくる法律的概念で3世紀初頭に確立したこの言葉。今で言うギブアンドテイクに近いかもしれないが、西洋の契約に関する概念や、相互主義の片鱗が伺える。また、人生は他人に何をどれだけ与えるかによってその豊かさが決まるというのも当時から世の中の本質であろうことがわかる。この成句を欧米でのビジネスで商談がまとまった後などにサラッとつぶやくことがお勧めされているが、私は今のところカッコ良く使える気はしない。

自動翻訳やChatGPTを誰もが使いこなし、言語習得のインセンティブについて疑義が叫ばれる昨今において、言語を学ぶことの意義を改めて感じさせてくれる一冊。著者の語り口やところどころに散りばめられた挿絵の写真が、独特の情緒を醸しており、心が洗われるような読書体験ができるのも本書を特別なものにしているのである。