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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】作者の最大のテーマがいちばん色濃く出た作品かも。『変種第二号 ディック短篇傑作選』

スターウォーズ』みたいなピュンピュンと光線が飛び交う様なスペースオペラは別として、割とSF映画が好きだ。1996年に公開された『スクリーマーズ』という、ちっと変態チックなホラー感アリの映画も結構面白かったのだが、エンドロールでディックの短篇小説が原作だと知ってやや違和感を感じたものだった。
まぁ、もっとも『ブレードランナー』だって『トータルリコール』だって、原作と映画では世界観からして全然異なるので、本作も大幅に改変したのに違いないと思っていた。
何しろ1953年の作品だ。だから、米ソの全面戦争によって地球全土は荒廃したという設定だったりする訳で、映画ではこの辺りは、どこかの惑星での企業と労働者間の争いという設定に置き換えられているという具合だ。
編者あとがきにおいて紹介されているディックの評では、この作品についてこう語っている。
「わたしの最大のテーマがいちばん色濃く出た作品。そのテーマとは、だれが人間であり、だれが人間の見かけをしている(人間になりすましている)だけなのか? 」
その表題作を読んでみると、ディック作品としては案外珍しくもSF・アクション・サスペンスといった趣きのものであって、映画『スクリーマーズ』は割と原作に忠実な作りだったことが知れた。

表題作だけでなく、本書に収録されている短篇たちは、いずれも戦争をテーマにしたものという共通性がある。
1940年代後半から1950年代前半に書かれたこれらの短篇は、第三次世界大戦や核戦争パラノイアに取り憑かれた当時の時代性もあり、戦争の影響、特に戦後の荒廃した世界を舞台にしたものが多い。また、タイムトラベル、並びにロボットなどの非人類を題材とすることもディック様のお得意で、それらの舞台装置を散りばめながら、何が真実か、本当のことは何かといった謎の多い全9篇が楽しめる傑作選だ。
個人的には、『歴戦の勇士』、そしてやはり『変種第二号』が面白かった。

尚、『ゴールデン・マン』は、2007年に『NEXT-ネクスト-』というタイトルで映画化されているが、大幅に改変され、殆ど原形を留めていない様だし、そもそも主演がニコラス・ケイジなのであまり観る気にはなれないのが正直なところだ。

収録作品
『たそがれの朝食 Breakfast at Twilight』
『ゴールデン・マン The Golden Man』
『安定社会 Stability』
『戦利船 Prize Ship』
『火星潜入 The Crystal Crypt』
『歴戦の勇士 War Veteran』
『奉仕するもの To Serve the Master』
『ジョンの世界Jon’s World』
『変種第二号 Second Variety』

変種第二号
作者: フィリップ・K・ディック
発売日:2014年3月20日
メディア:文庫本