これをお読みの皆さんは、小説と聞いて、どのように思うだろうか?「ただの娯楽さ」と片付けることは可能だ。しかし、小説からは多くのことを学べる。本書は、はらだみずきさんの『海が見える家』だ。僕が興奮したのは、まず舞台が館山だからだ。千葉県である。僕の故郷の県であるため、親近感がわいたのだ。今回は、このシリーズ小説について、書いていく。
本作は、4冊にわたり、主人公の「文哉」とその仲間たちの物語が書かれている。まさしく「起・承・転・結」である。何故、4冊まとめて書くのかといいうと、この4冊で一つの作品だからだ。僕が、心に刺さったのは、都会と田舎の対比を見事に物語で表している点である。しかも、心理学的にも正しい部分があるから、面白い。では、どのような部分が正しいのか。それは、文哉の心情に見て取れる。彼はこう言ったのだ。「人間は常識や今まで学んだことで判断しようとする。勝手に無理だと決めつけて、最初からやろうとしない。でも、ここ(館山)では、常識はどうだっていい。自分がどうしたいかだ。」である。本質をついてはいないだろうか。つまり、都会など多くの人が集まる場所では、社会的に良くないだの、周囲の人間や世間体を気にする。しかし、あまり人がおらず自然に囲まれた場所だと、そもそもそこまで豊かではないため、自分で考えて行動する必要がある。世間体を気にしていては、畑仕事や漁は勤まらない。よほど自然に囲まれたところのほうが、社会勉強になるのではないだろうか?
また、もう一つ、僕の頭に残っているセリフがある。主人公の「文哉」が、館山から軽トラで群馬の山中に出かけた場面だ。彼は、何気なくこのように思っていた。「お金のかからない一般道路を選んだ。(高速に乗るなど)あまりに効率を求めすぎると、その分見失うものもある。」だ。これも、真髄を言っている。つまり、「時短時短」と焦ると、目の前のことだけにとらわれて、本来味わえたはずの物事を味わえなくなる、ということだ。実際に心理学の研究では、効率を求めれば求めるほど、創造性は落ちていくことが分かっている。変化が激しく新しい技術が次々と開発されている現代では、じっくりをかけて考えることやぼーっとする時間が欠かせないということだ。また、世の中はどんどん短気になっている。ロルフ・ドベリの『News Diet』では、ロード時間が2秒もあると、現代の人々は焦りや苛立ちを感じる、という調査結果を明かしている。なので、僕はこう言いたい。「まぁまぁ、そう焦らずに、小説でも読もうぜ。」
本作は、いつも時間が足りないと焦っている人や、外の世界から離れてたまにはのんびりしたい、という人にうってつけの小説である。大自然の活用法がびっしり書かれており、登場人物のキャラクターも濃い。偏屈だけど根はいい人でずば抜けておいしい野菜を作るおじいちゃんとか、かなり口数も少なく人が苦手だけどアクセサリー作りをすると注文が殺到するほどの作品を作る18歳の女の子、ビワ農家の実家でビワを取らずにビワを染物に使っている30代前半の男性、なんて人たちが出てくる。まさに個性豊か。でも、どこか似ている部分もある。非常に読んでいて面白いシリーズだ。
最後に、このシリーズの1冊目には、何と参考文献もついている。僕は、こんな小説初めて読んだ。僕の中では、新しい発見もあったので、ぜひ手に取ってほしい作品だ。買うときには、4冊まとめて買うことをお勧めする。
参考文献
はらだみずき(2017~2022)『海が見える家』小学館
はらだみずき(2020~2021)『海が見える家 それから』小学館
はらだみずき(2021~2022)『海が見える家 逆風』小学館
はらだみずき(2022)『海が見える家 旅立ち』小学館