表紙イラストも印象的な、和田竜の小説家デビュー作。司馬遼太郎達とは異なる、新たな歴史小説の楽しさを味わうことができる一冊。
舞台は、秀吉の時代、難攻不落の小田原城。北条氏の配下にあった、成田家の話である。
物語では、船上にいる主人公、成田長親=『のぼう様』が敵前で田楽踊りをする場面が圧巻だ。これは、三成側の水攻めに対抗する、のぼう様の策として描かれている。
土着の農民たちは、普段から自分たちと戯れるのぼう様を慕いながらも、金で買収され、敵方の水攻めを担っていた。そして、船上でのぼう様は狙撃され、共感した農民たちが反旗を翻す。小田原攻めにおいて、唯一残った城は、のぼう様の城だった。
戦というのは、必ずしも数の力ではない。人心掌握、人から慕われる力が、武力を超越する。そして、こういう闘い方は、鮮やかな戦術ではないし、歴史にも残らないのかもしれない。
しかし、戦に負けなかったのぼう様は、なんだかとても素敵な武将だと思うのである。
映画では、主人公、『のぼう様』を野村萬斎氏が演じており、キャストと登場人物を重ね合わせながら読み進んでいくのも楽しくてオススメだ。
(評者 津田恵子)