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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】本質に次ぐ本質『会社という迷宮 経営者の眠れぬ夜のために』

超ベテランの経営コンサルタントである石井光太郎氏が、自身の30年以上に及ぶコンサルティング経験を振り返って、今過去のクライアントと対話するとしたら、こういう話をするだろうと取りまとめられた本書。願わくは、これからの経営者の方々への応援歌となるようにとの想いが込められている。
メディアなどでも引っ張りだこの一橋ビジネススクール教授の楠木建氏が推薦する本書。会社とは何か、経営とは何か、こういうことの本質に触れたい読者は手にとって欲しい一冊である。

内容は「戦略」や「市場」など、ビジネスで当たり前に使われている経営に纏わるビッグワードの本質的な意味について著者の考えを述べてある。例えば企業価値や、価値を出す、という文脈で使われている「価値」というワード。本来、他者から認められるものであるはずの価値が、なんだか自分自身で出せるもの、または客観的に計測できるものとして扱われている現実に苦言を呈している。人それぞれ主観的であるはずの価値が、何か絶対的なものとして捉えられ、いつの間にか誰しもが計測できる何かを追い求めていると著者は憂う。
このようにビジネスで普遍的すぎて意味を問うことをしなくなってしまった数々の言葉に対して本質的な意味を思い出させてくれる。

個人的には著者の本業でもあったコンサルタントについて書かれてある章も興味深かった。自己否定とも取れるコンサル批判の論調で、コンサルタントコンサルティングの本質について述べてある。医者を引き合いに出して、がんの医師ががん患者である必要はないという例えから、コンサルタントが事業再生の当事者・経験者である必要はなく、あくまで独立した第三者としての原因を診断し、対策をアドバイスできることがコンサルタントの価値であるという。一方で、本物のコンサルタントは何かの1つの分野に特化した専門家ではなく、未知の課題に対して、会社という主体を通して、経営者と一緒になって解決に取り組むことができる人種のことであって、それができているコンサルタントは非常に少ないと、半ば諦めの言葉がこぼれている。

人格と同様の文脈で使われる会社の社格という言葉を教えてくれた本書。本来社会的な主体としての会社が、いつしか制度的な会社という体を満たそうとするために本来の目的を見失った組織になってしまっていることの多い昨今において、会社経営における主観、歴史観、大局観の大切さを気づかせてくれる深遠なる書籍である。