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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】名作家の俳優業。『筒井康隆劇場 ジーザス・クライスト・トリックスター』

表題作の題名になんか聞き覚えがあるなぁ、と手にしてみた本書。
なんだこりゃ。演劇などのシナリオ集ではないか。
と思って、Wikipediaで調べてみれば、作者はかつて劇団「筒井康隆大一座」を立ち上げたことがあるのだそうだ。
1981年8月9日に東京日比谷野外音楽堂に於いて開催された『ジャズ大名セッション ザ・ウチアゲ コンサート』に、クラリネット奏者として出演した際に、観客に混じっていたアート・プロデュサーの鶴本正三から、原宿ラフォーレでのイベントを依頼されたのがそのきっかけだそうだ。
旗揚げ公演は翌年3月に上演された表題作で、作者自身が主役を演じた。以降も「大一座」は1989年まで活動が続いたと、これもWikipediaに書いてある。
1993年の断筆宣言以降は俳優業に力を入れ、また断筆解除後も頻繁にCM出演、映画、テレビに出演したり、蜷川幸雄の舞台に出たりとも記述があるが、残念ながら自身の原作であり、私の知人である河崎実監督がメガホンを取った映画『日本以外全部沈没』にも出演していることは、Wikipediaには書いていない。けしからんではないか。

それはともかく、なかなか衝撃的なシナリオばかりである。流石は筒井康隆である。
ジーザス・クライスト・トリックスター」では、イエス・キリストを人類史上最大のトリックスターと見立てる。デタラメばかりを口にして大衆を翻弄させるあの男は神の子か? それとも世を乱すだけの狂気の騒動師か?
しかしなかなか含蓄に富んだことも言う。
「のちの世、ひとはみな、良識への批判力を疑い、悪への理解力をなくし、常識を疑う分別を忘れ、些細なる目茶目茶のひとつすら許されず、唯一、非日常の目茶目茶が許される筈の祭りすら管理されるようながんじがらめの社会の中で窒息するのだ」
まるで、SNSでの炎上を恐れたり、同調圧力に縛られてばかりの現代にも当てはまるような科白ではないか。
とは言え、基本的には比較的初期の筒井康隆らしいナンセンス、ブラックユーモアが散りばめられた、毒々しく笑える狂気の六編なのである。

収録作品
ジーザス・クライスト・トリックスター 山にのぼりて笑え」
「人間狩り」
「ジス・イズ・ジャパン」
「部長刑事―もう一つの動機」(テレビ・ドラマ)
「ウィークエンド・シャッフル」
「三月ウサギ」

筒井康隆劇場 ジーザス・クライスト・トリックスター
作者:筒井康隆
発売日:1987年7月15日
メディア:文庫本