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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】幽霊とSFと物理学。『日本発狂』

 

読み始めると、次も読みたくなるなぁってことで、今更ながら古本屋で手塚治虫の漫画をピックアップ。
とんでもないタイトルだなぁと、ちょいと買ってみたのが本作だ。

定時制高校に通う通称イッチこと北村市郎は、或る深夜の街で幽霊の一群の行列を見た。直後知り合った雑誌記者の本田に、イッチは先刻の目撃体験を語った。
同じ夜、終電を待つ駅のホームで目が合ったのは、美しい女子高生。イッチは声を掛けなかったことを悔やんだが、後悔先に立たず・・・でもなかった。
自室に戻ると、不意に声がした。振り返るとそこにはさっきの少女が居た。
兄を戦場に送った帰りにあなたと会った。なんだか急にお話がしたくなって、と言った少女だったが、「戦場ってなんだい」と、問い返した時にはもうその姿は無かった。
「ぼくは始めっからこの部屋にたった一人なのか? 彼女もあの声もみんなぼくの頭のデッチあげなのか? それともっ?」
翌日、本田はイッチに会おうとした道すがら、交通事故によって死亡してしまった。
駆けつけた警察病院。そこにはあの少女が待っていた。彼女は、十年前の昨日に自分は死んだのだと言った。
その夜、イッチはまたも幽霊の行列に出くわした。そして、その中に本田の姿を見るのだった。そして、本田によるあの世からの取材レポートが、イッチを通じてこの世に届けられ始めた。
あの世でも驚くことに戦争があった。三つに分かれた勢力はもう三十年も戦っている。あの世の戦いで死んだ者は、この世で生まれ変わる。戦場での手が足りないあの世では、この世からどんどん人を連れ去っているのだと言う。

作者あとがきで、手塚治虫は、”死”と”UFO”とをSF的にドッキングさせようという発想から本作は始まったが、幽霊や死について描いていくうちにジメジメとしてしまい、これではいかんとあの世での戦争や強制収容所などを取り入れていったら支離滅裂、収拾がつかなくなり、フィナーレは筒井康隆調でてメチャクチャになってしまった、と書いているがなかなかどうして。
スリラーと言うよりも、死後の世界はどうなっているのか、幽霊とは如何なるものかということに対して、SFに物理学までも掛け合わせたユニークな作品になっている。
幽霊、死神、幽体離脱、死後の世界、エクトプラズム、プシー粒子、更にはUFO。相変わらずみっちりと密度が濃い手塚作品は、昨今の漫画に比べて、読み進めるのはなかなか力業だが面白さもまた格別。怒涛の展開を夢中で読破! しちゃったのだ。

日本発狂
作者: 手塚治虫
発売日:1982年7月20日
メディア:単行本