狩撫麻礼と守村大とのコンビ作品『ラスタ牌』の主人公である下山と麻雀仲間の三人が別名義(?)で登場して活躍するロックバンドモノの漫画である。
『ラスタ牌』同様、コメディ基調でサクッと読める快作。
実は私的には『ラスタ牌』よりもこちらの方を先に読んだし、そもそも狩撫麻礼作品自体も三〜四冊目だったので、その印象は強烈だった。
何が強烈って、そりゃやっぱり主人公ジュンのキャラクターだろう。ビンボー、スケベ、自己中心的、たまにちょっとセコイ。絶えず黒眼鏡を外すことなく、己の価値観にのみ忠実で、ムカムカ〜〜っときたら後先考えずに俄然暴れ出すアブねーヤツ。
「ヤツには常識は通用しないよ」
「頭の配線が2、3本狂ってやがるのさ」
「あっ、こいつまた理屈こねてひねくれてるな」
「ジュンにゃ正しいことは一つしかないんだもんな」
「こいつ本物のスーパースターかも・・・・・じゃなかったら・・・・・ただのアホだ」
と、バンド仲間たちも正しく評価する。
結成して間も無いのだろうか。名も無きバンドの構成は、ギター、ペース、ドラムスのスリーピースバンド。音楽スタジオを宿屋がわりにさせてもらっての三人共同生活中。
どうやら狩撫麻礼は、自らも一応バンド活動をちょっとだけしていて、ドラムス担当だったらしい。だから、というか、ジュンの担当楽器もドラムスだ。
狩撫麻礼作品らしいのは、物語のべースにはバンドの存在があるものの、音楽活動を物語の中心とする訳ではなく、身勝手で強引なジュンの性格と、毎度湧き起こる突飛な出来事とのタッグマッチだ。
湘南の海水浴場近くのカフェでの一夏のイカしたバイトでモテモテになる筈だったのが一転、イカ焼きのテキ屋を務めるハメになり、挙句に死にかける。
夏の暑い日、工事現場の肉体労働をサボって公園で暇つぶし。そこで出会った過去あるいかがわしい商売の営業マンたちの心意気に心打たれるも、それすら決して長続きしない情緒不安定っぷりを露呈。
メンバーを躊躇なく捨て去り、ジュン一人だけ唐突にレディースバンドのドラマーに居座り、コンテストに出場してデビューを目論むが、審査員に男だとバレて大暴れ。
と、迷走っぷりが半端ない。
とはいえ、後半ではそろそろヤル気も見せる。デモテープを作ろうということで、ボーカルを決める。その決め方はバトルロイヤルとシンプルだ。バックドロップ一発で、ジュンはその権利を勝ち取った。
バンドのステージデビューの時は唐突に来た。或る学園祭での屁の様なロックバンドの演奏に業を煮やしたジュンがステージをジャックする。完全アウェイの状況。ノープランのジュンがとっさに選んだ楽曲は、パチンコ屋で覚えた”浪花節だよ人生は”レゲエバージョン!
「パワーさえあれば、保守党の応援歌までレゲエになること教えてやる!」
演奏後も帰れコールが収まらず、パトカーのサイレンが近づいてきた中、ジュンは叫んだ。
「バカヤロー、今にお前らを熱狂させてみせるぞ」
彼らの前途はまだまだ未知数。だが、正しいロックバンドは最初は必ず嫌われる! 孤立して孤立して、そのプレッシャーをインスピレーションに変えたやつがスーパースターと呼ばれる!
「POWER FOOLを忘れるな!」
POWER FOOL
作者: 狩撫麻礼、守村大
発売日:1985年4月18日
メディア:単行本