歌に込められた想いや作られた背景、そして解説が一首毎に書かれている。読めば読む程、昔の歌人達に対して親近感が湧いてくる。1000年前の人も今の人も思う事ってそんなに変わらないなぁと。ただ、和を重んじてきた日本人ならではの婉曲な表現、それを自然に例えたものは長い月日が経っても色褪せない。
百人一首の約4割は恋を歌ったものである。しかし、内容は純粋な恋を喜んでいるものは圧倒的に少なく、恋煩いに悩んでいたものが多い。面白いのが女性の立場になって男性が歌を詠んでいるものがいくつかある。平安時代後期には男色家が増えた背景もあり、勝手にジェンダーレスを感じた。また秋に関する歌も多く、秋特有の物悲しさが漂う。全体的にネガティヴなものが多い百人一首だが、ここまで昇華させた歌人達は称賛に値する。
最後に私が気に入った歌を紹介する。
「音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ」
浮気な男の誘いを見事に切り返した女の歌である。男は藤原俊忠(ふじわらのとしただ)、女は作者である祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)。当時、俊忠は29歳に対して紀伊は70歳前後。実に興味深い。