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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】自慢の弟を紹介します。『頁をめくる音で息をする』

 

本書は広島県尾道市にある開店時間23時の古本屋「弐拾db(ニジュウデシベル)」の店主、藤井くんのエッセイです。
私は、藤井くんの事を3人目の弟だと思っている。下の弟と同級生で、私と同い年のお姉さんが居るらしい。藤井くんはというと、私の事を他のお客さんに「近所に住んでいるお婆ちゃんみたいなもんです。」と紹介してくれた。たしかに、藤井くん会いたさに読み終わった本だけではなく実家に転がっている缶ビールやら庭の花やら持って行っていたら近所のお婆ちゃんに懐かれているのと同じ状態だろう。藤井くんの事を弟みたいだと思っているけど個人的によく知っている訳でもない。まぁ、社会人になったら実の弟達だって何をしているのか分からないし、実の弟達よりかは顔を見ていると思う。
初めて藤井くんに会った時、彼はまだ古本屋ではなかった。私が住んでいたシェアハウスに出ていくのと入れ違いで住人になった。
私は元々、読み終わった本はマメにブックオフに持っていく方で、本棚に残っている本は全て、心に刺さった思い入れの強い本だった。本棚はそのまま私だった。
藤井くんは知るはずのないことだけれど、彼と出会った頃、私は自分の全部が嫌になっていた。宝物だった本も何が面白かったのか思い出せなくなっていた。それで、古本屋を始めるという彼に、本を全てあげた。ライフハックとかミニマリズムとは意味合いが違っていた。私にとって本を処分するということは、それまでの私を処分することだった。藤井くんに持って行った本のセンスを褒められて嬉しかった。それまでの私を褒めてもらったのだから。そうして、彼は自分で知らないうちに、20代までの私を葬り、私は成仏することができた。
大学生の頃、イベントのボラスタで知り合ったお兄さんに久々に会った時、こんなことを言っていた。「しばらく落ち込んでいた時期があってね。他の人に会いたくないから昼間は外に出られなくて、弐拾dbだったら夜中にやっているからさ、よく藤井くんに話を聴いてもらったよ」
藤井くんの文章にはたびたび、生き残った、とか、死にぞこなった、というワードが出てくるが、私も知り合いのお兄さんも死にぞこなり、生き残っている。そこに悲壮感はなくて、ちょっと可笑しい。ほとんどの人間が大なり小なり死にぞこなった事があり、普段の生活でその事を思い出さないのだけど、夜中の古本屋で、ふと、自分は今まで生き残ってきたのだと思い出すかもしれない。
どこにも行き場がない時に藤井くんがお店に灯りをつけて待っていてくれる。
夜まで待って古本屋に行くという奇妙な体験と、藤井くんの落語みたいなおしゃべりが、夢ではない証拠の品として、弐拾dbで本を買ってみてはいかがだろうか。