『装甲騎兵ボトムズ』は、1983年4月1日から1984年3月23日まで、全52話がテレビ東京系で放送されたテレビアニメであり、そのノベライズ第一弾が本書だ。
しかし、出版されたのは2002年で、なんと放送終了18年後。何故、わざわざ、いまさら? しかも、執筆しているのは高橋良輔監督御自らときている。
未だ根強い人気をキープし続けているこのアニメは、ビデオ、レーザーディスク、DVD、Blu-rayと、メディア媒体が進化する度に、また、周年記念などの機会に、幾度となく「なんちゃらBOX」が販売され続けているが、本書出版の動機にしても、多分そんなノリからだったのだろう。
さて、まず作りとしては、各話をサブタイトルもそのままに一章として区分けしている。放送当時から評判の高かった次回予告までもそっくり収録している。
内容にしても、台詞多めで、描写少なめ。その台詞も極力テレビ版に忠実であろうと意識していることが分かる。
変に深掘りするでもなしで、これは小説なのか? いや、ちょっと違うよね。じゃあ一体何か?
これは、なんというか、もうこの際作家性なんか放棄しちゃって、まんま再現することに専念しちゃえ! ってな思い切りの下で書かれた、究極のノベライズなのだ。
だから、文章の卓越さがどうとか、比喩がどうとか、そんなことはどうでも良い。
こんなものを、いっぱしの作家先生に書かす訳にもいくまい。だからこそ高橋監督が筆を起こしたのであろう。
しかし、読んでみると、却って、案外と、むしろそれが良い。スーラスラ読める。そして、読むに従い番組がすんなり頭に蘇ってくるのだ。
元の作品を大事にしたいという高橋監督の想いまでもが感じられる様だ。
アストラギウス銀河を真っ二つに分けた百年戦争。
突然の転属。内容の明かされぬ作戦に参加したキリコ・キュービィーが作戦中に偶然発見したのは、棺桶のような装置に入れられた全裸の女性。目を凝らすキリコ。突然目を瞠る女はキリコを見据えた。
この作戦以来、軍から追われる身となったキリコは、数ヶ月後には惑星メルキアの退廃と悪徳の街「ウド」に紛れ込んでいた・・・。
テレビシリーズでは、1クール毎にガラッと舞台が変わるという趣向を凝らしていたのだが、本書で描かれているのは、その第一の舞台『ウド編』の13話までである。
その終わり際では、戦争しか知らなかったキリコが、この街で出会ったゴウト、バニラ、ココナのロクでなし三人組と行動を共にするなかで、無口な見た目こそ変わらぬが、意外なまでに人間らしさを取り戻していたことが窺え、ドキリとさせられるのだ。
次回『クメン編』。
キリコが飲むウドのコーヒーは苦い。
装甲騎兵ボトムズ I ウド編
作者:高橋良輔
発売日:2002年11月1日
メディア:文庫本