本書は、「良い人材が健全に定着する組織を科学的に作る方法」という副題と通り、人が定着しない「組織の病」の原因と対策を、マーケティング手法を使いつつ、豊富な具体例を出して分かりやすく解説してます。
みなさんの会社や組織では、バリバリ活躍する人が急に辞める一方で、仕事をしているのか分からない人や仕事が辛くて暗くなっている人などが身近にいませんか。それはもしかしたら、「組織の病」が蔓延しているのかもしれません。
「組織の病」とは、メンタルヘルスだけではなく、社員やチームの生産性低下、雰囲気が悪い、採用苦戦、離職など、これら全てが該当します。そしてこの病は、社員が感じる「不満や不公平感」といった「マイナス感情の蓄積」により発生し、そして広まる。この十人十色と思われる社員の「マイナス感情」をマーケティング手法を用いて分類して、対応すべきターゲット絞ることで効率よく解決する。一般的に顧客(市場)に向けて使うマーケティング手法を社員(社内)に用いたところが面白いですね。
では、どのように分類するのか。
まず、個人活性をピラミッド状に捉えると上から順に「①働きがい」、「②働きやすさ」、「③心身コンディション」となり、①が低下すると積極的な離職、②が低下すると消極的な離職、③が低下すると離脱(メンタルダウンなど)となる。
次に、組織の中の人材を5つにグルーピングして考える。このとき、会社を現在けん引している「優秀人材」よりも次に優秀人材になる可能性が高い「ハイポテンシャル人材」や
入社したばかりで次にハイポテンシャル人材になりえる「立ち上がり人材」を優先的に対策を行う。一見、「優秀人材」に対策を実施したくなるが、「優秀人材」は個人が求めるものが千差万別であることが多く、対策が打ちにくい。なので、思考や求めるものが似ている「ハイポテンシャル人材」と「立ち上がり人材」をまとめて効率的対策する。
余りにも効率的過ぎて恐ろしいですが、ノー残業デーのような全社一律の施策だと「①働きがい」を求める人からすると不満が溜まるのでちゃんと狙うというのは良いですね。
そして、ターゲット層が決まったら、組織活性につながる「①働きがい」、「②働きやすさ」、「③心身コンディション」の各項目を、従業員意識調査、ストレスチェックなどを用いてモニタリングしながら改善施策を実行します。このとき、改善効果を測る指標は会社や組織によって見やすい項目が異なるので項目や内容の充実も適宜実施します。また、組織活性の把握はいくつかの指標を複合的に見ていく必要があるため専門家と協力して実施するのが良い。確かに、現場で実務を実施しているリーダーや管理職は分析までは手が回らないですね。
著者は、医師でありながら経営学修士(MBA)を取得し、産業医・経営コンサルタントとして活躍後、『ココロを扱うコンサルティングファーム』として独立。産業医としての現場の肌感覚とコンサルタントとしての問題を分解して分かりやすく説明する能力により、人事のプロでなくても理解できる内容になってます。是非、組織の若手リーダークラスや管理職以上の方には、「最近の若い者は…」と言う前に、人材育成と管理の基本として読んでほしいです。
このように人材に関する評価手法や対策方法が確立しつつある今、少しずつではありますが多くの組織は良くなっていくと思います。一方で現場は人事の分析結果を待っていれば良いのかと言うと私は違うと考えてます。本書でも少し触れられてますが、社員のココロに「無関心」で「想像力の欠如」した組織ではいくら手法が開発されても「マイナスの感情」の発生を止められない。
社員のココロに関心を持つきっかけとして本書を読んでみるのはいかがでしょうか。