著者である児童精神科医師が医療少年院で見た光景は衝撃的なものだった。ケーキを等分に切れない少年、「自分はやさしい」と言う殺人少年、そもそも反省すらできない少年。そんな通常では理解できないような非行少年たちの現実だった。
これは他人事ではない。人口の十数%(35人のクラスに5人の割合)はいるとされるIQ70〜85のいわゆる「境界知能」の人の中には何らかの認知機能の弱さを抱えているにも関わらず、社会から理解されず、誰にも手を差し伸べられずに苦しんでいることがある。そして、遂には非行に走るしかない人もいる。多くの人々はその事実に気づいてすらいないが、確かにそのような人たちは身近に存在しているのだ。
本書は彼らへの理解を深めるとともに、更に踏み込んで犯罪・再犯の予防と教育における認知トレーニングの必要性を訴えている。そして具体的なメソッドと認知機能向上に使える教材も紹介している。これらは1日5分あればできるし、非行少年や境界知能の人々の支援に役立つ可能性を秘めている。
「理解不能」「少年犯罪の厳罰化」
そんな世論の声が飛び交っている。確かに被害者や家族からしたらそう訴えるの当然だし、犯罪は許されるものではない。だが、周囲から理解されないというのは我々も知る通り、辛く苦しいものだ。そんな彼らとともにこれからの社会をつくり、少しでも悲しい事件を減らすためにも、多くの人にこの現実を知ってほしい。